4話
結局北条家は降伏せず北条征伐が秀吉により諸大名に通達された。
長宗我部勢は九鬼嘉隆、加藤嘉明、脇坂安治、毛利水軍ら水軍勢の大将として伊豆を攻略する役目を与えられた。
元親はこの日の為にと水軍衆の池頼和に命じて作らせていた大黒丸に信親と共に乗船し意気揚々と土佐を出立した。
今回の戦は信親の弟の津野親忠、吉良盛親にとっては初陣であり2人とも期待と不安が混じった表情をしていた。
「孫次郎、千熊丸。2人共緊張しているな」
船の先端に広がる大海原を眺めながら信親は2人の弟に優しく話しかける。
「はぁ……船酔いです。大きい割にはかなり揺れるので……」
「兄上は情けない。俺は大丈夫ですぞ!」
と、今にもゲロりそうな親忠と意気揚々に船首に足をかける盛親。
兄弟でこうも違うのかと苦笑しながら信親は太平洋を眺める。
「I'm the king of the world!!!」
船首に立つと言いたくなるアレである。
しかも自分の船でこのセリフを言えるのは格別の幸せだった。
「あの、兄上……。あーいむざ、えーっと?」
「おう五郎次郎。見たことないのか、タイタニック」
不思議そうにやってきたのは香川親和。
お家騒動で精神的に病んでないので今も元気だ。
「た、たいたにっく?存じ上げませぬが南蛮の物でしょうか?」
「南蛮か……?あれはイギリスの話だから紅毛だろう。いや、映画はアメリカ……いやメリケンか?」
「あっ、兄上は紅毛のことをご存知なのですか!?」
と、盛親が目を輝かせて聞く。
ここでやっちまったの信親。
「いや、聞かなかったことにしてくれ。それにしても兄弟4人揃って大黒丸に乗れるなんてなぁ」
史実ではバラバラになる四兄弟が一同に介している。
向こうを見れば元親も幸せそうに見ている。
「それにしても九鬼殿の船は珍しい形をしておりますなぁ。鉄が貼り付けてあるとは……」
「おう、目の付け所が良いな孫次郎。あれは鉄甲船と言ってな。13年前の木津川口での戦で信長公が使われあそこに浮かんでる毛利水軍をコテンパンにしたそうじゃ」
「あの毛利水軍を……。信長公は凄いお方だったんですね!」
目を輝かせる盛親。
本能寺の変の頃はまだ7歳の彼からしたら信長は我々から見た仮面ライダーみたいな物なのだろう。
「うっ、うん。まあ色々となぁ」
と苦い顔をする信親と親和。
そんな風に兄弟水入らずで話していると駿河湾まで到着した。
「お前達、他の諸将も集まって軍議を始める。着いて参れ」
「ははっ」
こうして4人は軍議に向かった。
・香川五郎二郎親和 長宗我部元親の次男
・津野孫次郎親忠 長宗我部元親の三男
・吉良千熊丸盛親 長宗我部元親の四男、史実における長宗我部盛親(元親甥の吉良親実の養子)
・池頼和 長宗我部水軍の指揮官、元親の妹が妻
・九鬼嘉隆 豊臣水軍の指揮官、志摩の大名
・加藤嘉明 賤ヶ岳七本槍・七将の1人、武断派
・脇坂安治 賤ヶ岳七本槍の1人