34話
讃岐丸亀城は騒然としていた。
何せ家臣が出奔し長宗我部に仕えようとしているので抗議したらその長宗我部家の当主の信親は三千近い軍勢で丸亀城にやって来たのである。
その軍勢は大半が鉄砲を持ち全員が煌びやかな甲冑を着込み立派な馬に股がっておりまさしく南海の大将軍と若手大名が言うのに相応しい軍勢であった。
「こっ、これは土佐宰相殿っっ!わざわざお越しとは如何なる御用で?」
城門まで出迎えた山内忠義はオドオドしながら信親に挨拶する。
信親は黙って頷くと忠義は一行を天守へと案内した。
「ふむ、周りに家臣がいるとそなたもやりにくいであろう。俺が来たのは後藤と乾の事だ」
「そっ、その儀は当家の面目もお考えくだされっ……!家臣をみずみずと手放すようでは天下に顔が経ちませぬ!」
「ふむ、そこでな。そなたに土産を持ってきた」
そう言うと信親は箱からツボを取りだした。
「こっ、この壺は?」
「かつて太閤殿下が聚楽第行幸の際に参列した大名衆に天下一のツボとして紹介された壺なのじゃ」
「おお、父上から聞いたことがございます!確か一万貫で方々がご購入されたと」
「そうじゃ。これを持つ大名は今では徳川家、前田家、池田家、丹羽家、細川家、森家、京極家、蒲生家くらい。何せ一万貫だからのう!」
一万貫は現代の価値で言うとだいたい9億円くらい。
石高で言うと18万石くらいで今の山内家の金を全て集めても買えないレベルの代物である。
「これをそなたに差し上げるゆえ今回の事。穏便に済ませてはくれぬかのう?」
「こっ、これを頂けるなら家臣のひとりやふたりなど構いませぬ!誠によろしいのですか!?」
「ああ、良い良い。何せ3つ買ったからのう。ホッホッホッ」
嘘である。
3つ買ったのは本当だがこれは今井宗薫に作らせたパチモンでそもそも一万貫のツボ自体が呂宋助左衛門が嘘っぱいで塗り固めたパチモンなので価値はない。
「あれ、今井殿が大して価値は無いから寝かせて売ればいいと仰ってたやつですよね?」
帰り道に政重が聞く。
「うむ、あれは文化に関しては猿くらいの知識しかない親父殿を哀れんだ今井宗薫が俺に内密に教えてくれたんだよな。まあ千利休が価値あるものって言って太閤が紹介したものだ。情報を買うってことさ、情報を」
かくしてパチモンのツボと引き換えに信親の名声はさらに高まった。
乾と後藤はそれぞれ土佐に千石という破格の待遇で迎えられ信親の側近となった。
山内忠義の方はパチモンの壺を家臣や他の大名に自慢しまくって居たのだが誰一人としてパチモンとは気付かなかった。(そもそも当時のオークションに参加していた大名は家康以外死んでいるから当たり前なのだが)
さて、その頃大坂では条約を破り徳川家が大坂城の防衛設備の大半を破壊。
浪人衆と淀殿、秀頼側近衆との対立はさらに深まるのだった。