30話
信親が京に着いた頃に大坂城が開城し髻を落とした盛親が彼を待ち構えていた。
「むっ、右衛門!どの面下げてここに来た!」
と津野親忠が盛親に掴みかかる。
「申し訳ございませぬ、兄上!」
「お主は既に他家を起こした身。今更俺に謝る必要もない」
そう言い残すと信親はさっさと屋敷に入りそのまま崩れ落ちた。
「あー疲れた。本気でヤバいかと思ったよ」
「あの……兄上、やばいとは?」
と不思議そうに聞く親忠。
「違う、危なかっただ。大谷吉継は恐ろしい男よ」
「これも藤堂殿と加藤殿のおかげですな」
「何?いや、俺の指揮のおかげだろうよ。論功行賞が楽しみだな!」
その後、信親は国許に帰らず伏見にてゆっくりとしていた。
そして10月の半ば、信親は大坂に呼び出された。
既に福島正則、加藤清正、細川忠興らの恩賞は決まっており信親はせいぜい20万石程度の加増があれば良い方と思い上座に堂々と座る家康に頭を下げた。
「内府殿におかれましては此度のご戦勝、改めてお祝い申し上げる」
「忝ない、これも土佐殿のおかげでござる」
家康はそう言うと井伊直政に目で指示を出した。
指示を受けた直政は書状を広げそれを読み始めた。
「羽柴土佐少将豊臣信親。関ヶ原の戦にて大谷吉継、平塚為広、戸田勝成以下多数の首を挙げ小早川秀秋の裏切りに貢献した功により土佐一国24万石を安堵……」
(ああ、それでも本領安堵か)
と半ばヤケクソになり頭を下げようとした信親だったがどうやらまだあるようだ。
「旧領の讃岐、阿波、伊予のうち伊予40万石を返還し併せて64万石とする」
下げようとした頭ごと信親は後ろにずっこけてしまった。
64万石となると伊達、島津、小早川ら有力大名
よりもさらに上なのだ。
「あっ、有り難き幸せにございます!不肖信親!これより先も豊臣家へのご奉公に励みまする!」
「うむ、しかと励まれよ」
と、ここで信親はひとつ思いついた。
「内府殿の側室のお亀の方は今、お子をご懐妊しておると聞いております。そのお子が男児ならば某の娘を妻にしていただけぬでしょうか?」
「おお、某は祝着なり!」
井伊直政が言うと本多正純、松平忠吉らも頷く。
「それはかたじけない!これからも頼りにしておりますぞ!」
家康はそう言って信親の手を握りしめた。
その後、井伊直政から聞いた話だと初めは盛親の事もあり、信親は15万石程度の加増で話が進んでいたのだが松平忠吉と井伊直政の口添えで伊予一国となったらしい。
「井伊殿……そなたは何故そこまで俺のために……」
「亡きお父上や叔父上はワシに良くしてくださいました。それに婿殿に代わり福島正則と池田輝政を抑えてくださったこと、全て長宗我部様が居られねばなしえぬ事でした。これくらい当たり前でございます」
と、ここで信親は思いついた。
「そうじゃ井伊殿。貴殿には側室に産ませた次男がおったのう。その子を我が娘と婚約させたいのじゃが?」
「じっ、次男ですか?嫡男ではなく?」
「嫡男は他の娘と婚約しておろうが。次男で良い」
「はっ、はは。ならば上様にもお伝えしておきまする」
この次男は後に史実では井伊直孝となる子であり信親の権力拡大に貢献するのであった。
次回から夢編です、大体6話くらい