24話
諸大名は大坂に妻子を置いており三成ら西軍はそれを人質として東軍諸侯を味方にしようとしていた。
それ故に集まった諸侯の顔は暗かった。
ちなめに信親の妻子はと言うと増田長盛と長宗我部盛親の機転で土佐に帰れている。
さて、そんな中で家康は堂々と上座に座ると演説を始めた。
「石田治部並びに大谷形部の挙兵及び上方の情勢は安定せず、豊臣家温故の方々は大切な妻子を大坂に残しそれを思うとこの家康、胸がつまる思いでござる。古来より弓矢を取るものは今日の味方が明日の敵となる事は珍しからぬ事にて方々が大坂方に加勢されてもこの家康、少しも恨みもうさず、もしもワシが勝利してもこれまでの交は決して忘れは致さぬ。それゆえ、お望みとあらば即刻西へと向かい大坂方に加勢されよ。道中の安全はこの家康が保証致す!」
家康が言い終えると諸将の間に重い沈黙が訪れた。
そして福島正則がその沈黙を破った。
「徳川殿のご存念をお聞きしたい。豊臣家奉公の志が有りや無しや、お答えあれ」
「無論、豊臣家奉公の為に戦うつもりじゃ!」
「ならば、この福島正則。謀反人石田治部とそれに与する者を尽く討ち取ってみせようぞ!」
正則がそう言うと黒田長政、細川忠興、池田輝政らも立ち上がりそれに続く。
そして最後まで立ち上がらなかったのは信親と最後尾辺にいた真田昌幸くらいであった。
「土佐殿、何故立たれぬ?」
小声で藤堂高虎が耳打ちする。
だが信親にその言葉は入ってこなかった。
「長宗我部殿、貴殿は如何なさる?」
家康が聞く。
その目は何を悩んでいるのだ、早くしろと訴えかけていた。
そして沈黙の末、信親は立ち上がった。
「この、長宗我部土佐少将信親!小牧の戦のご縁からも内府殿に御味方致す!」
「おお、頼もしや!四国一の弓取りの力、頼りにしておりますぞ!」
そう黒田長政が言うと他の諸侯も頷く。
どうやら信用されているようだ。
「内府殿!すぐにでも治部を討つために西進させて頂きたい!」
「承知した、福島殿。では我が倅の忠吉を総大将に本多忠勝、井伊直政を付けワシと秀忠以外の方々は西に向かわれたし!」
「心得た!」
「承知!」
と池田輝政と加藤嘉明。
「秀忠は中山道を進み信濃の諸大名を率いて美濃を攻めよ!」
「ははっ!」
「秀康と蒲生殿は最上、伊達らと連携し上杉、佐竹に備えよ!」
「はっ、ははぁ……」
と本戦に参戦できずに不満そうな結城秀康。
「各々、思うように戦われよ!」
「応!」
と諸侯が答え信親は東へと向かおうとした。
すると家康に呼び出されたのだった。