19話
秀吉の死は隠された事と信親が秀吉の命日を忘れてしまった事でどうなったか分からなかったが徳川家康が長宗我部屋敷を突然訪れたので秀吉は亡くなったと信親は悟った。
「こっ、これは徳川殿!如何なされた?」
「ああ、いや。近くに立ち寄ったのでご挨拶に。お父上は?」
「申し訳ない、父上は病で寝込んでおります」
嘘である。
徳川家康が来た瞬間に元親は仮病を発動したのである。
「そうですか……それは残念。後で薬を届けさせましょう」
「其は忝ない、せっかくいらしたのです。茶でも如何ですかな?」
「有難い、頂きましょう」
と、普通に話していたのにここで同伴していた徳川秀忠が口を開いた。
「しかし国政を任されている父上がいらしていると言うのに挨拶もしないとは宮内少輔殿には困ったものですな。ははは」
「推参なり子倅ェッ!貴様何様のつもりだ!!」
流石にこの失礼な発言には信親は激怒した。
刀に手を左手をかけて右手で秀忠の胸ぐらを掴む。
「こっ、これ秀忠!」
すぐに家康が諌めるが秀忠は既にビビり散らかしていた。
「もっ、申し訳ございませぬ!平にッッ!平にご容赦をッッッッッ!!」
秀忠は涙ながらに頭を地面に擦り付け謝罪する。
ここで信親も我に戻り刀から手を離す。
「倅の教育くらいしておいて貰いたいものですな」
「申し訳ない、秀忠には後できつく叱っておきますゆえに」
と家康も軽く頭を下げる。
さて、結局秀忠は先に屋敷に帰宅させられ家康だけが長宗我部屋敷にて茶を振る舞われた。
家康はきな臭い政治の話などは一切せず、信親の茶や武功を褒めるだけ褒めて帰って行った。
「ふん!今後の政変で我らの味方をして欲しいという事が我らに悟られぬとでも思うたか!」
家康の姿が見えなくなると病から立ち直った元親が吐き捨てる。
「どうやら殿下に何かあったようですな。しかしあの徳川の倅には腹が立ちますなぁ」
「所詮は田舎の小童よ。信長公の時代であれば速攻で斬り捨てられていただろうに」
「それは我らもでしょう」
「ははっ、そうじゃな!」
さて次の日、家康が立ち寄ったのが石田三成の耳に入り信親は呼び出された。
元親も来いとの指示だったが病を理由にやはり元親は来なかった。
「昨日、内府殿がそなたの屋敷に来たそうだが……」
「立ち寄ったから挨拶に来たそうだが、お主の想像するような話はしておらんぞ?」
「まあそなたはともかく……あの男は近頃は島津維新や細川越中の屋敷に頻繁に出入りしておる。また奴が来るかも知れぬ故に目を光らせておいてくれ」
「承知した」
その後も家康は度々信親の屋敷を訪れたがいつも元親が病にかかり秀忠が無礼を働いて信親が刀に手をかけ家康だけが茶を飲んで帰るというのを繰り返す日々だった。
しかしそんなある日、事件が起きるのだった。