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シン 長宗我部転生記   作者: 三p
天下人の章
199/199

最終話

元号が変わって元和となった。

更にそこから5年の月日が経ち、元和5年の冬。

大御所、長宗我部信親は老臣の本山親茂と共に豊後戸次川に来ていた。


「寒いのう。九州は暖かいと思っておったが寒い。お前にはちときつかったか」


「いえ、大御所様にお誘い頂いたのであれば行かぬ訳には参りませぬ」


信親は近頃体調を崩しがちな親茂を誘って別府温泉を巡っていた。

そのついでに戸次川に来ていたのだ。


「もしも歩む道が違えば俺もお前もここで死んでいたような気がする」


「ははは。お戯れを」


「いや……確実にそんな夢を見た。父上が信長に従わずに秀吉とも敵対し土佐一国に押し止められ、島津征伐で無謀な戦を強いられ俺もお前も戦死……父上はその後は親通に家督を継がせるために奔走するが病に倒れ親通は天下人に抗い続け処刑される夢……。悪夢のような夢じゃ。正夢にならなかったのはひとえに俺を送り出してくれた父上のおかげじゃ。そしてお前たち家老共もな」


「いえ……ここまでの道は全ておお……若君が……千雄丸様が成し遂げられたのです。ここまでの景色を見せて頂きこの親茂……どれほどの御礼を申し上げたら良いか……」


「いや、礼を申すのはこちらの方だ。ここまで俺に尽くしてくれて本当に感謝しかない。ありがとう、太郎左衛門。お前の子孫代々の繁栄はこの俺が保証する」


「はははっ。その言葉が聞けて安心して逝けそうですな。先に元親様やその他の方々と酒でも飲んで待っておりますぞ」


「ああ……。だが俺はまだまだ生きるかもしれんぞ?それでも良いな」


「ええ……何年でも待ちますぞ」


信親と親茂はニヤリと笑い少年のように笑う。

それから一週間後、親茂は備前岡山城にて家族に見守れながら世を去った。


それから五年……さらに元号は変わって寛永二年。


信親は伏見にいた。

孫の長宗我部家親もすっかり成長し今では秀親の元でしっかりと政務の基本を学んでいる。

(ちなみに家の字は信親が三英傑で連続させたら面白いと思ったので適当な理由をつけて名乗らせた)


「初よ……すまなかったな」


信親は外の紅葉を見ながら隣にいる初に話しかけた。


「今更ですか……随分と時が経ちましたよ」


「お前の妹の実家を滅ぼし姉とその子を殺した……。しかし全ては秀親の為……許してくれとは言わぬが受け入れてくれ……」


「分かっています。あなたが戦ってきたのは全て長宗我部家の安泰と秀親の将来のため……。私とて織田信長の姪です。それが理解出来ぬおなごではありませぬ」


「ふん……。お前は強いな。私は弱い男だ。常に御家を滅ぼしてはならぬという恐怖でここまで生きてきた。しかし近頃はそれからも解放された気がする」


「あの子が立派になったからでしょう。あなたが修羅の道を進んだ意味が少しでもあったなら良いでありませぬか」


「ああ……これで私もあの世へと行けるな」


「私もお供致します」


「いや……お前は秀親のそばに居てやってくれ。あいつが家親を育て上げてから参れ」


「心配性ですね……分かりました。それまでに伯父上に織田家を滅ぼしたことの説明……お願い致します」


「それはちと難しそうじゃ。もしかすると叩き斬られてこの世に戻ってくるやもしれぬ」


「そうすればもう一度私が戻してさしあげますよ」


「ははは。恐ろしい嫁じゃのう。しかしそなたとの縁がここまでの道を切り開いたのだ。お主に出会えて誠に良かった」


信親がそう言うと初の目から涙が毀れる。

信親は震える初の体をしわしわの手でしっかりと抱きしめた。


その日の夜……。


「起きろ、起きろ。ワシの千雄丸!」


「ち、父上!なぜ!?」


信親が目を覚ますとそこには元親が居る。

それだけでは無い。

香宗我部親泰も吉良親実も本山親茂も谷忠澄も福留儀重もいる。


「まもなく秀吉の大軍が迫っておるのだ!この戦に勝たねば長宗我部は終わりぞ!」


「へ?……ああ……ははっ。なるほど」


そう、ここは正史の天正13年の白地城。どうやら夢の中で四国征伐を受ける直前の光景を見ているようだ。

それを察した信親は涙を堪えて笑う。


「何がおかしいのですか、若君」


それを見た親茂が心配そうに聞く。


「いや……暫く夢を見ていた……いやこちらが夢なのか?分からぬ。だが皆の姿を見れて俺は幸せじゃ」


「変なことを言うものじゃ。しかしこの日常と後継を守るためにも我らは秀吉に勝たねばならぬ!秀吉が天下を取る……それは結構!されど我らは四国を守らねばならぬ!秀吉と戦い、勝って我らの意地を見せつけるのじゃ!」


元親の鼓舞に兵士たちが答え咆哮をあげる。

そしてふと信親の方を見る。


「弥三郎……ここまでご苦労……共に参ろうぞ」


「大層な出迎えにございます。随分と時がかかりました」


「お前はやはり我が誇りよ。さあ……四国を守ろうぞ」


「ははっ、皆の者!俺に続け!」


信親も兵たちを鼓舞し白地城を飛び出す。


その時、伏見城の庭の片喰紋の葉が落ちた。


長宗我部信親、享年61。

天下人の命は尽きた。

しかしその死に顔はまるで若武者のように明るく、活気に満ちていたのだった。


(完)


ここまでありがとうございました。

やっとハッピーエンドで作品を終わらせることが出来ました。今後の幕府については皆さんのご想像にお任せ致します。

ブックマークを外す前によろしければ評価ボタンをポチッとして頂けると嬉しいです。


それから新作の「偃武来ず もしも徳川家康が大坂の冬の陣直前で病死したら」(https://ncode.syosetu.com/n7875in/)

の方もよろしくお願いします。

今まで書きたくて書けなかった大坂の陣をメインにしています。盛親も今回は大活躍するかもね。


それでは皆様、改めてまして本当にありがとうございました。

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