123話
修羅場と化した戦場を呆然と眺める秀家の元に次々と悲報が流れてくる。
「申し上げます!南宮山麓の徳川秀忠様が討ち取られました。明石全登様も行方不明との事!」
「佐竹勢を破った河野勢が大谷・小西勢に迫っておりまする!」
「殿、如何なさいますか!」
冷や汗を流しながら中村家正が秀家の方を見る。
「くそが!だが真田が居る!彼奴らは我らに味方すると申しておった!」
だが真田昌幸のそれは方便であった。
8年という時の間で秀家の人望は無くなっていた。
周りにいた重臣たちも中村以外は残っていない。
秀家が次の一手を考えている間にも大谷吉継と小西行長は島津軍とともに参陣していた石田重家の軍勢に追い詰められていた。
「まさか治部の倅に首を取られることになろうとはな」
「左様ですな。しかし貴殿はデウスのためにはこうするしか無かったのでしょう?」
「うむ、お主とて織田とワシに挟まれれば宇喜多に味方するしかあるまい。乱世とは残酷よの」
「ははは、しかし治部に会えるのが楽しみでござる」
「そうじゃな、おお!あれは島左近か!」
行長の目線の先には石田家家老で2人とも良く酒を飲みかわした島左近が単騎でこちらに向かっていた。
「小西様、大谷様!今すぐ我らに降伏してくだされ!さすればお二人の命は必ずや!」
そう言って老いた体から必死に声を振り絞る左近。
しかし行長は首を横に振った。
「初めから私も刑部も死ぬ覚悟でここにおる。しかしお主が来てくれるとは思ってもおらなんだ」
「左様、お主に解釈されれば思い残すこともないわ」
「何を申される!おふたりを討ったとあれば殿の墓前でどのように申せば!」
「ふん、あの世の治部が寂しくないように親友を2人も送り込むのじゃ。良いでは無いか」
「左様、田舎の地侍の息子と商人の倅がここまで偉くなれたのだ。悔いは無い」
「さあ、左近。ワシは自害は許されぬ。この鉄砲で一思いに撃ち抜いてくれ」
そう言って行長は鉄砲に弾丸を装填すると口に加える。
「その後はワシの介錯も頼む。既に家臣の殆どは撃たれたのでな」
「くっ……!小西様、大谷様!申し訳ございませぬ!!」
そう言うと左近は行長が加えた鉄砲の銃把を握り引き金を引く。
「小西殿、あっぱれな最後にござる!さあ、次はわしじゃ!」
そう言って吉継は短刀を腹につきさす。
左近はそれを確認すると三成から与えられた大太刀を吉継の首に振り下ろした。
こうして豊臣秀吉に才覚を買われ天下の差配すら任された小西行長・大谷吉継は関ヶ原に果てた。




