118話
慶長11年、信親は思い切った行動に出る。
それは国内でのカトリックの布教を禁止し全てのキリシタンはプロテスタントへの改宗を迫ったのである。
これはカトリック国家であるイスパニアやポルトガルを封じ込めるための策であった。
上杉景勝も南蛮の噂は常々聞いていたのでこれを快く了承してくれた。
そんな、ある日信親は景勝と碁を打つ機会があったので、前々から疑問に思っていたことを聞くことにした。
「ところで上杉殿、貴殿にお子が生まれたようだが金吾殿はどうするおつもりなのだ?」
「千徳のことですかな?あれは正妻の娘ではござらぬ故に金吾殿にそのまま所領を任せようと思うておるが」
「うーむ、それも良いが千徳殿がそれでは不憫であろう。貴殿も当家のように所領を分けてはどうかね?」
「千徳に別家を起こされるということですかな。確かに金吾殿の引き連れてきた家臣団と上杉家臣団の軋轢を生まぬためにも良い案かとは思うが……」
「実はな、堀秀治の体調がこのところ良くない。もしあれが死ねば跡を継ぐのは我が孫の堀親俊。されどもはや堀監物すらも病がちで油断も出来ぬ久太郎がおるとなれば堀家を東国に減封し空いた越前には越後の長谷川秀成でも入れようと思うておる」
「なんと……!高田侍従殿を越前へ……」
「左様。それ故に越後に千徳殿と直江兼続でも入れてみてはどうか?されどその分、堀家の転封分をそちらから出して欲しい。あれを納得させるためにも米沢と庄内をくれんかのう」
景勝にしてみれば自分の血の繋がりのある千徳が越後に入るのは悪くないどころか喜んで受け入れたい話である。
しかし米沢と庄内は戦の末に手に入れた土地でありそこを手放すのも惜しい。
「もしも秀治殿が亡くなるようならその話、飲ませてくれ。千徳をいずれ長尾家の養子として越後に入れたい」
「決まりじゃな。本来なら上杉殿に会津ではなく関東を任せたいが……」
「まあそこまで高望みは致しませぬ。長宗我部殿、いずれ千徳の妻には秀親殿の娘を頂けぬか?」
「おお、それは喜ばしい!ますます両家の絆は深まろうぞ!」
まもなく、堀秀治が本当に病で亡くなった。
堀家は米沢に40万石で減封となり代わりに長谷川秀成が45万石で越前に入府した。
そして信親の約束通り、景勝嫡男の千徳が越後に入ることが内定。
千徳の成人までは直江兼続が越後を任されることになり、景勝も隠居先を故郷の春日山に据えた。
しかしこの転封のゴタゴタの中で、信親を憎むもの達が牙を剥く。




