114話
宇喜多秀家を抑えることに成功した信親は上機嫌だった。
「ははは!やはりお主を奉行に推薦して正解であったわ」
そう言いながら屋敷に招いていた垣見一直に茶を差し出す。
「宇喜多様は例の騒動以降、やたらと気が短くなられました。困ったものですなぁ」
そんな風に2人が談笑していると福留政親がやってきた。
「申し上げます。宇喜多家家老の中村家正殿が参られました。どうやら宇喜多様の遣いだそうで」
「ほう、中村と言えばその騒動の原因では無いか?なんだ謝りに来たのか?通してやれ」
早速政親に案内され中村が信親の部屋に通される。家正は不気味なくらいにニヤニヤしている。
「何が面白い。謝罪しに来たのでは無いのか?」
「いえ、こちらをご覧くだされ」
そう言って家正が信親に書状を差し出す。
「何……?ッッッ!信重討伐をワシと信雄以外の宿老が皆認めただと!」
「はっ。既に小野木重次、平塚為広、宮部長房ら諸大名に出陣命令が下されました。御安心なされませ、長宗我部様に手を下しはさせませぬ」
「おのれ秀家め!直ぐに国元の久武らに兵を集めるように命じよ!毛利や島津にも……ッ!」
「おやめなされ!ここで織田殿を庇ってまたもや天下を真っ二つにする戦を起こすおつもりか!」
激怒する信親を垣見一直が必死に抑える。
それを横目に中村家正は長宗我部屋敷を出ていった。
それから数日のうちに備前征伐軍の先鋒が織田領に侵攻。
信重の猛反撃により初戦を優位に進めた織田勢だったが続く第二陣として堀秀政の軍勢が押し寄せるとその大軍には叶わず、岡山城にて自害して果てた。
また、花房・戸川両名は秀家の元に一族郎党と共に連行され京にて全員が処刑された。
更に秀家はそれだけでは満足せず信重の妻子や重臣達にまでその間の手を伸ばす。
結果的にこの備前征伐は秀次事件の再来とまで呼ばれ程に惨たらしいものとなった。
この事件を機に信親は激怒し自身を裏切った堀秀政には絶縁状を叩きつけ隠居。
同様に織田信雄も宿老の座を退いた。
それから半月後、この事件の首謀者が宇喜多秀家の屋敷を訪れていた。




