18話
名護屋に戻った信親はさっさと帰国しようとしたが徳川家康が信親を持て成したいと言うので兵達のみを帰し、徳川家康の嫡男の秀忠の屋敷へと足を運んだ。
「お待ちしておりました、徳川中納言にございます」
屋敷の主と徳川秀忠は深々と挨拶する。
しかし招いた家康本人は居ないようだ。
「あの、貴殿の父君は?」
「あっ、ああ……父上は大坂に用事があるとの事で……」
あまりにも無礼だ。
信親は腸が煮えくり返る思いだった。
さっさと帰って妻や子に会いに行こうと思っていたものの時間を割いて来てやったのに来てみれば本人は居ないのである。
せめて先に連絡くらい寄越すべきだろう。
とはいえ秀忠すらも歳下の小僧とはいえ官位は信親よりもはるかに上であり秀吉の側室の淀君の妹を妻にしており怒鳴り散らすわけにもいかない。
「なるほど……年寄衆ともなるとお忙しいものであるな」
「もっ、申し訳ない。されど料理も酒もたんまりとありますゆえどうぞごゆるりと」
これで美味かったら良かったがこれまた料理は京風で味が薄く酒もあまり美味くはなかった。
これなら遊郭に行っておけばよかったと思う信親であった。(後に彼は行かなかったことを喜ぶことになるが)
さて、イライラしながら土佐に戻った信親は完成した高知城の天守閣でゆっくりとしていた。
と思ったら秀吉の体調が良くないらしいので見舞いに行きたいと元親に言われたので上洛した。
「殿下に御拝謁が叶い恐悦至極に奉りまする」
長宗我部親子は秀吉に深々と平伏した。
「ああ、よう来てくれた。朝鮮ではご苦労」
「はっ。勿体なきお言葉にございます」
信親は再度頭を下げる。
度々秀吉は咳き込みダルそうにしている。
もうそろそろか?と信親は疑い始めた。
「近頃は身体も思うように動かぬわい。天下を取っても寿命には勝てぬようじゃ」
「実はワシも同じでございます。地獄までお供致しましょう」
と元親が冗談っぽく言う。
まあほんとにそうなる訳だが……。
「ははは。何も犬千代(前田利家)や寧々ならともかく元親殿がそこまでする事はあるまい。ゆるりとご隠居生活を楽しまれよ」
秀吉も笑いながら冗談で返し場が和む。
「しかしのう……。わしが死ねば拾はまだ幼く佐吉ら奉行衆と虎之助ら子飼衆は折り合いが悪くそれを狙う輩がおるかもしれぬ。その時はどうか拾のことをお願い致す」
と、突然秀吉が頭を下げる。
「おっ、おやめ下さい殿下!我らは常に豊臣家への奉公と正当性を第一に行動致しまする。それゆえご安心なされませ」
信親も焦りながら頭を下げる。
「頼もしい言葉じゃ、ちと疲れたわ。また会おう、長宗我部殿」
それ以降秀吉と信親が会うことは二度と無かった。
この2ヶ月後、豊臣秀吉は病でこの世を去った。
そして天下が目まぐるしく動き始めたのである。