109話
秀家の関東移動が確定すると奉行衆達が姿勢を正す。
「それでは御三方は宿老に誰を推薦するか、お2人挙げて頂きたい。まずは上杉殿から」
増田長盛に指名され放心状態だった上杉景勝が首を振る。
「某は棄権致します。山城の件もあり、宿老を新たに推薦する資格などございませぬ」
景勝が引き下がると信親と秀家はニヤリと笑う。
「では次に長宗我部様」
「うむ。俺は堀秀政に越前一国、毛利輝元に安芸・防長の3カ国にそれぞれ移封させ宿老に任ずるべきと心得る」
「堀宰相様と毛利宰相様ですな。では宇喜多様は?」
「ワシは堀秀政に関しては同じく、もう一人は織田秀信に美濃一国を任せ宿老に任ずべきと考える」
「はっ!?」
直ぐに信親が立ち上がる。
「岐阜中納言殿だと?あのような若造に宿老は務まるまい」
「官位、血筋ともに問題無かろう。それとも岐阜中納言殿では不都合があるのか?」
織田秀信が宿老になってしまうと堀秀政が遠慮して信親の思う通りには行かなくなる可能性がある。
そこまで見抜いて秀家は秀信を宿老に推薦したのだろう。
「ならば岐阜中納言殿ではなく大津宰相殿はどうだ?経験も血筋も十分だろ」
「加増しても40万石に届くか分からぬ者が宿老なのは如何なものか。そして毛利宰相はかつて太閤殿下に敵対した大名、これも宿老には相応しくあるまい」
「殿下に敵対したのは毛利宰相ではなくあくまで吉川元春と心得る。更に言えば徳川とて殿下に敵対した身。何が問題であろう」
「だから問題なのだ。殿下に敵対した家康を許したから此度のようなことになった。岐阜中納言殿ならその点は問題あるまい」
「だが若すぎる、まだ20だぞ。織田家の血筋ならもっと経験豊富なものを……」
ここで秀家・信親共にとある人物を思いついた。
「1人おったが……」
「あいつに任せるのは……」
「ああ、常真様ですか?」
2人の渋い反応を見た前田玄以が答える。
「此度の合戦では大坂城の守備を務められ見事に勝利に貢献されました。確かに先の内大臣であり歳は43、なおかつ織田家の先の当主と全て問題はございませぬ。更にどの派閥にも属されてはおりませぬ」
増田長盛が言うと他の者も頷く。
この時点で豊臣政権の2大派閥は信親を中心とする西国大名の派閥と宇喜多秀家を中心とした秀吉の親族大名の派閥であった。
毛利輝元は西国大名、織田秀信は豊臣秀勝の世継ぎとして親族大名に分類されていた。
しかし信雄は改易されていたのでそのどちらにも属さず奉行達にもその方がやりやすかった。
「……まああいつは戦以外はそれなりに出来るゆえに悪くないか。ただ還俗させた方が良いだろう。所領はどうするか……」
「ワシもそれで良い。尾張一国で良いのでは?皆はどう思うか?」
秀家が辺りを見回すと全員頷いた。
「では常真様は還俗し尾張一国を加増の上で宿老に。で、岐阜中納言様は如何なさいますか?」
「美濃一国、与えてやって良いでは無いか?あ、河尻秀長に岩村5万石だけ返還してやるか」
長束正家の質問に信親が答えると秀家も同意した。
「では岐阜中納言様は美濃51万石、河尻秀長殿が岩村5万石ですな。大垣の伊藤守正殿は如何なさいますか?」
「伊勢の富田信高の所領を与えよう。5万石じゃ」
この秀家の提案にも誰も反対しなかった。
そして会議は次のフェーズへと移行していくのだった。




