107話
今日は関ヶ原の戦いが起きた日です。
我々は吉川広家、山内一豊を許してはいけません。
徳川家が降伏すると伊達家や最上家を始めとした東国の徳川諸将はこぞって西軍への停戦を申し出た。
江戸に入っていた信親と秀家はこれを承諾。
上杉景勝と合流し江戸城に宇喜多家家老の明石全登と長宗我部家老の中島重房を置き結城秀康らを監視させると大坂城へと戻った。
秀頼と淀殿への戦勝報告を済ませると前田利長を除いた宿老3名及び捕縛され蟄居している浅野長政を除く奉行衆3名の計6名による論功行賞が始まった。
とはいえこの場を取り仕切っているのは信親と秀家の2人であり諸大名はこぞってこの2人に仲介を頼んでいた。
奉行衆もその事はよく理解しており増田長盛は信親、長束正家は秀家、前田玄以は中立というような状況である。
「さて、まずは徳川に着いた連中で桶狭間で討死した奴らだが……これは尽く改易でよろしいな?」
信親が聞くと長束正家が口を開く。
「と申されますと加藤清正・福島正則・加藤嘉明・長岡忠興・京極高知・金森長近・有馬豊氏・蜂須賀家政・生駒一正・中村一忠・堀尾忠氏・竹中重門・一柳直盛にございますな」
「私も同じ意見だ。しかし細川家に関しては家名だけは残して欲しいと公家共から嘆願書が届いておる。おそらく幽斎めの差し金じゃな」
細川幽斎は丹後田辺城に数百の兵と共に籠城していた。
史実では一万五千の兵を引き付けていたがこの世界では信親が千人程度を抑えとして残していたのみで大した戦功も無く忠興討死の知らせを聞いて開場し蟄居していた。
しかし幽斎の名を惜しんだ公家達が秀家に嘆願書を出していたようだ。
「細川様とは織田家に居た頃からの付き合いでございます。何卒家名だけは存続させていただけるでしょうか?」
「玄以殿も申されるか。俺の弟の親光は知っての通り長岡越中の娘婿でな……。生き延びた越中の倅を助命するように嘆願しておる」
「ならば長岡家は断絶として越中の倅の忠隆に細川家を継がせ丹後に1万石程で如何でしょう?」
増田長盛が聞くと皆が頷く。
「それでは細川家は丹後宮津1万石に減封、その他の諸家は改易として黒田家は如何致しますか?長政は戦死しておりますが黒田如水は土佐守様の元で奮戦、此度の勝利にも貢献しております」
長束正家が日本地図に置かれた諸大名の駒を弄りながら聞く。
「黒田家に我が次男を送り播磨を与えると約束したがそれで良いか?石高は姫路に15万石ほどが良いか……」
「如水の働きを考えればそれでも足りぬくらいじゃが……。まあ家臣団が半壊したことを考えればこの程度の加増で良いか」
「では黒田家は長宗我部様から養子を取り姫路15万石で」
そう言いながら筆を動かす正家だが手は追いついていないようだ。
「次に浅野家だ。これは新奉行の選任も含めて慎重に扱うべきじゃ」
「浅野長政・幸長は共に蟄居しておりますが北政所様より助命嘆願の使者が参っております」
玄以が言うと信親が舌打ちする。
「うるさい婆さんだ。まだごちゃごちゃ言うか。幸長はまだガキで分別もつかないゆえに許してやっても良いが長政は家康に調略され暗殺計画をでっち上げ、それ以前にも奉行としても丸っきり役に立っておらぬ。そろそろ手打ちにするべきよ」
「口を慎まれよ長宗我部殿」
上杉景勝が止めようとするが信親の怒りは収まる様子がない。
「もう豊臣家の奥を取り仕切るのは淀殿よ。北政所様は大人しく殿下の菩提を弔うとけば良い」
「さもありなん。しかし北政所様を蔑ろにすれば面倒なことになりましょうぞ。ここは抑えてくだされ」
長盛が信親を宥める。
この男、確かに信親派閥であるが石田三成が死に浅野長政の失脚はほぼ確定しており、もはや豊臣政権の台所を取り仕切る立場であり外様の信親らを除けばいわば筆頭家老である。
だからこそ、前のように信親にヘコヘコ頭を下げるのではなく少々自立する意識が芽生えていた。
「ならば長政の代わりの奉行は俺が選ばせてもらう。それで良いなら長政の命は許してやる」
信親が辺りをギョロりと見回す。
「構わぬ。治部の代わりはもう決まったようなものじゃしな。で、奥州だが……」
秀家はそう言いながら懐から上杉景勝に書状を渡すのだった。




