106話
家康の首は信親と秀家の元に真田親子により届けられた。
「おお、徳川殿。今までで1番良い顔じゃ。まあせっかくなら首より下も見たかったがのう」
「言うな土佐守。安房守・左衛門佐、ご苦労であった」
家康を捕えられずに不満そうな信親に対して秀家は真田父子に労いの言葉をかける。
「別に悪気があって言った訳では無い。真田殿はわざわざ如水の要請に応じて危険を承知でここまで来てくれたのだからな。道中は問題無かったか?」
「はっ。黒田殿が仙石秀久に手回しして頂いたおかげで容易くここまで参ることが出来ました」
「うむ、大義である。真田勢は損害も多かろう。これより江戸攻めの先鋒は毛利に命ずるゆえに後方にてゆるりとしておれ」
「ははっ!」
真田父子が出ていくのと交代で堀秀政がニコニコしながら入ってくる。
その後を彼の近習が首桶を持って続く。
「やあやあ御二方。山内対馬守の首にござる。検分を頼みたい」
露骨に秀政に嫌悪感を示し目線を逸らす秀家に対して信親は首桶を開ける。
「おう、ようやった。江戸攻めも気張れよ」
「ははー!」
珍しく秀政は信親に頭を下げて陣を出ていく。
「堀には甘いな。こちらが有利になるまで日和見をしておったのだぞ」
「桶狭間では奮戦しておる。それに彼奴を怒らせれば毛利や長谷川を巻き込んで新たな火種になりかねん」
「まあ言いたいことは分からなくもないが……、にしても問題は上杉よ。最上にちょっかいをかけた挙句惨敗して、聞けば越北の村上や溝口にちょっかいをかけようとしているらしい」
「直江山城か。あやつに関しては長谷川秀成から処罰するように嘆願書が届いておる。長谷川家は上杉や前田の脅威にも屈せずに森忠政を攻撃し真田勢の進撃を手助けした功績もある。聞き入れてやろうと思うのだが」
「うーむ。会津中納言殿次第じゃな。しかし治部が亡き今、直江を庇う者などおるまい」
盟友を失った宇喜多秀家は少し悲しそうにしている。
長束正家や小西行長も三成が死んで腑抜けたように見える。
(治部……死んでくれて感謝する。これで俺を邪魔する者は居なくなった)
その後まもなく徳川秀忠が捕縛された。
これを受けて関東に残っていた結城秀康と武田信吉は降伏を決断。
慶長の乱は幕を閉じたのだった。




