103話
朽木元綱・赤座直保の裏切りを聞いた信親・如水、元親は呆然とした。
「毛利高政様、赤座勢の攻撃を受けお討死との事!」
「誰?」
「誰です?」
「誰だよソイツ!」
3人が立て続けに声を上げる。
「いや……殿とご隠居が分からないのはまだしも、黒田殿まで分からぬわけが無いでしょう!」
「ええぃい!誰でも良いわ!赤座と朽木合わせて何人ほどだ将監!」
「凡そ二千にございます」
「二千だろうが一万だろうが裏切りが出たというのが問題じゃ。早急に叩き潰すように小西らに命じよ」
元親が的確な指示を飛ばすが親茂は気まずそうにしている。
「どうされました、本山殿」
「いや、その……小西勢と福原勢が黒田長政に釣られた所を裏切られたので今は包囲されて殲滅されかけております」
「くそ!太閤の譜代というだけで取り立てられたアホ共め!立花も島津も動けぬとなるとこちらが援軍を出さねばならぬのか!」
「兄上、ここは我が香川勢にお任せくだされ!奴らを尽く討ち取ってみせましょう!」
それまでずっと長宗我部の陣にいた香川親和が名乗りをあげる。
「よおーし、五郎次郎に桑名・中島の軍勢をつける。合わせれば一万程にはなろう」
「有り難き幸せ!御免!」
親和率いる香川隊は直ぐに赤座隊に攻めかかった。
案の定、二千程度の軍勢で一万もの大軍を抑えられるはずもなく赤座直保は討死し朽木元綱は捕縛された。
しかしこの間に九州勢はかなりの損害を受け、早川長政が重症を負った。
この辺りであたりも暗くなり、全軍は一旦交戦を辞めた。
その日の夜、宇喜多の本陣。
「クソ太郎め!今すぐに彼奴の首を掻っ切ってやる!」
「落ち着け、奴らが居なくとも戦況は拮抗しておる。このまま徳川を圧倒してやろうでは無いか」
イライラする信親に対して秀家は調子が良いのかどっしりと構えていた。
しかし本人が知らないだけで先鋒の明石全登の部隊は既に五百人もの死傷者を出している。
「そうは申されてもそれは宇喜多様だけにございます……。我が島津勢も限界にござる」
「立花勢も同じく」
島津義弘と立花宗茂が疲れ切っているのは誰の目にも明らかであった。
実際、戦う相手が本多忠勝と榊原康政という事もあり損害は大きい。
「西国無双と呼ばれた2人がこう申すのだ。せめて毛利だけでも何とかならぬか?」
「ならばこの宗茂めにお任せあれ。日向侍従殿と共に久留米侍従を説得して参る」
「お頼み申す。上杉景勝は動かぬのか?」
「何度も使者を送っておりますが最上や伊達の動向が気になると申して動きませぬ。逆に伊達と最上は兵を引くことに合意しておりますが……」
長束正家の話を聞いて秀家が舌打ちする。
「チッ!所詮は信長に滅ぼされる直前まで追い詰められた程度の男よ。やはり我らが野戦で打ち破るしかないな」
「うむ。それなのだが黒田如水が明日の早朝から攻撃をかけて出来るだけ徳川軍を引き寄せてくれと頼まれておる。各々お願いできるか?」
「官兵衛様の策とあれば間違いはないでしょう。承知致しました」
小西行長が言うと諸将も頷く。
「ようし、なかなか大変なようだがここが踏ん張りどころぞ。必ずや内府の首を上げてくれようぞ!」
秀家の言葉で軍議は締めくくられ天下分け目の戦いは2日目に突入するのだった。




