93話
宇喜多秀家らの猛攻撃に清洲城は落城し守将を買って出た脇坂安治は戦死、田中吉政・山内一豊らも兵を率いて撤退した。
さて、その頃小田原まで出陣した徳川家康の元に本多忠勝からの書状が届けられた。
「殿、書状には何と?」
本多正純が恐る恐る書状を睨みつける家康に聞く。
「平八郎からは福島らが討たれた、このままでは勝てぬので清須を放棄して吉田に海路で向かうと書いとるわ。討ち死にした者の名はこれよ」
家康が投げ捨てた書状を成瀬正成が拾い上げ戦死者を読み上げる。
「こっ、これはほぼ壊滅ではありませぬか。本多殿や井伊殿が居られながらこの有様とは……」
安藤直次が声を荒らげる。
「内容をちゃんと読め。福島、加藤らが勝手に飛び出したと書いておるではないか。藤堂殿や黒田殿らの軍勢は未だ無傷。しかも石田治部の軍勢を壊滅させたのなれば良いでは無いか」
奥平信昌が呆れたように言う。
家康側近の正純や安藤らと本多忠勝・井伊直政ら宿老が不仲なのは徳川家中ではよく知られた話である。
「左様。撤退してくる本多殿らの軍勢と中納言様の軍勢、そして我らが軍勢を併せれば8万にはなる。寄せ集めの西国勢など恐るるに足らぬ」
石川康通がそう言うが側近達は納得していない。
「佐竹や上杉が動けばどうなりますか!背後から攻められ壊滅ですぞ」
「佐竹は家中で割れ上杉は伊達と最上に背後を取られ動けぬ。長谷川も上杉に要らぬ手出しをされ連携する気など全く無いようだ」
未だ文句を言う安藤を信昌が睨みつける。
「もう良い。とにかく秀忠をこちらに呼び寄せよ。平八郎らの軍勢と合流して決戦といこうではないか。向こうは浜松辺りで迎え撃とうとしてくるはずよ。先に浜松城に入っておくように平八郎らに伝えておけ。堀尾が死んだとなれば浜松も実質我らの物よ」
「里帰りですな。我らが先行して浜松に入りまする」
松平康長が前に出る。
「よし、孫六郎に先鋒は任せる。早急に平八郎たちと合流し浜松を抑えよ。福島らが討たれたとはいえ負けでは無い。気合を入れよ!」
「ははっ!」
一同が声を揃えて答える。
新たなる戦いが始まろうとしていた。




