92話
信親らは桶狭間の近くの平野に一旦、野戦築城を行いそこを陣とした。
彼らの元には数多の将の首が届けられた。
「そっちが加藤清正で隣が加藤嘉明……同じでややこしいな。それはお主もよく知ってるであろう蜂須賀家政っと」
堀秀政が首桶を開けては鼻をつまむのを繰り返しながら床机に腰かける信親に説明する。
「こっちが島津の家臣が持ってきたのだな。生駒一正に金森殿か……。こちらに味方すれば良かったものを」
「堀狂太郎にも情はあるのか?」
「金森殿は馬廻りの若造であったワシらに権六殿のように怒鳴り散らしたりもせずに優しく接してくださったからな。んでこれが寺沢広高か。おお、宇喜多詮家の首もある。備前殿はお喜びだろうな」
これだけでそれなりの大物だらけだが彼らの家臣も含めれば相当数の首がある。
島津・立花・秋月・高橋・小西ら九州大名の活躍に信親は心の中で拍手を送る。
「次はお前の弟らと俺の倅が取った首。流石だな、津野・河野・武田の三軍で福島正則、細川忠興、有馬豊氏、京極高知を討ち取ったか。んでこちらは中村一忠、堀尾忠氏、竹中重門、一柳直盛か」
「ああ、もう後で纏めて奉行共に報告させろ。くっせえよ」
信親がそう言うと近習達が首を運んでいく。
それと入れ違いで如水が入ってきた。
「申し上げます。池田輝政・井伊直政・本多忠勝・黒田長政・藤堂高虎らが熱田へ移動致しました。清洲に残るのは山内一豊・田中吉政・脇坂安治ら少数にござる」
「ほう!さては彼奴らは逃げる気だな。治部少輔の敵討ちと行くか?」
「それよりも清須を落とし背後を安泰させるのが先じゃ。改めて毛利宇喜多と合流し浜松辺りで徳川を迎え撃つ」
秀政の提案に元親が反論する。
「これは如三殿とは思えぬお言葉。井伊兵部や本多平八郎を討ち取れば向こうの結束も揺らぐであろう」
「逃げる敵を討ち取るとは感心できんな。それに船が無いのにどうやって海上の敵を攻撃するのだ?」
「くっ……」
言い争う2人を見かねた信親が口を開く。
「久太郎の申すことは最もだ。別に逃げる敵を討ち取っても手柄は手柄じゃ。されど親父殿の申す通り、船が無ければ何も出来ん。紀州の堀内らを今から呼び寄せても半月はかかるな」
「さすれば清須を落とす方がよろしゅうございますな。すぐに宇喜多様らに使者を送りましょう。向こうにも手柄を上げさせねば」
「如水の申す通りじゃな。親父殿も久太郎もそれで構わんな?」
「御大将が申されるなら仕方あるまい」
「うむ。我らは宇喜多が清須を落とすのを待って吉田を攻めるとしよう」
如三と秀政の同意を得た信親は一旦清須落城を待ちつつ桶狭間付近で休息を取るのだった。
親通「兄上、西国転生モノはあまり流行らないらしいですぞ」
親忠「確かに上位ランキングは東国の話ばかりだな」
親和「乗るしかありませんな、このビックウェーブに!」
信親「東国の大名なんて知るわけないだろ」




