77話
西軍の首脳陣たる秀家、信親、四奉行は頭を抱えてしまった。
細川ガラシャが自害した事で一気にこちら側の評判が悪くなり北政所からも人質を解放するように指示が来たのだ。
「煩わしい婆さんだ。ここで言うことを聞くと戦後の処置にも響くぞ」
「しかし長宗我部様。ここであの御方の指示を無視する方が……」
三成含めて奉行衆と秀家はかなり北政所に対して慎重な態度をとっていた。
しかし豊臣子飼いでは無い信親からすれば迷惑でしかない。
「仮に命令を無視すれば我らが逆賊になることも有り得る」
「これは備前殿とは思えぬ言葉だな。向こうが逆賊と叫ぼうがこちらは大坂を抑え俺は淀の御方様の義弟で貴殿は殿下の養子。今更、殿下の子を1人も産めなんだ老婆の申す事など無視しておけば良い」
「言葉がすぎるぞ土佐殿。これでは豊臣恩顧の諸大名は着いてこぬ」
「ふん!豊臣恩顧の大名などこちらの陣営には大しておらぬではないか。こちらの主軸は西国大名と織田一族。それを忘れてもらっては困る」
信親の言う通り、西軍の大名は大半が外様であり彼らの目指すところは朝鮮攻めでの豊臣子飼いの大名との軋轢と自身の領土拡張が参加の要因だった。
彼らからしたら北政所か豊臣秀頼かどちらを取るかなどは二の次だ。
「そっ、そうですな。我らの軍は奉行勢と西国大名の連合軍。北政所様にとやかく言われる筋合いはございませぬ」
長盛が言うと長束正家と前田玄以も頷く。
しかし幼少期から北政所に世話になっている石田三成と宇喜多秀家は黙り込んだままだ。
「別に貴殿らが北政所様のご機嫌取りをしたいならそれで構わんよ。こちらで片付けるのでな」
「いや、待て。ここは北政所様の命令は一旦保留し東国大名の向こう側の反応を待とう。治部もそれで良いな?」
退席しようとした信親を秀家が呼び止める。
「少し気になるお言葉もございますが致し方ありませぬ。北政所様には内府に味方する事が如何に愚かな事か納得して頂くまで屋敷にて大人しくしてもらいます」
「ほう。育ての母にかなり厳しくいくな。だが良き心構えじゃ。此度の戦に勝つのに義も情も要らぬ。必要なのは兵と士気、そして我らの覚悟だ。改めて理解されよ」
こうして北政所の命令は無視され東軍側の人質は監禁、西軍の大名の妻子も大坂城下で監視されることになった。




