75話
新作の主人公にして欲しい人物を教えてください。
西ノ丸にはかつて秀吉が着用していた甲冑が置かれその左側に秀家、信親と並んだ。
反対側に日本地図が立てられ毎度の如く駒を配置する為に長束正家と増田長盛、石田三成、前田玄以、小西行長、大谷吉継ら奉行衆が控える。
奉行衆側にはその他の三成や秀家と近い豊臣家譜代の家臣、信親の側には堀秀政、織田信重、毛利輝元、島津義弘、香川親和、立花宗茂、小早川秀包、黒田如水がずらりと並んだ。
「それでは軍議を始めさせて頂く。まず、この戦は豊臣家に仇なす内府とそれに従う者どもを尽く葬る戦にござる。各々、しかと働かれよ」
三成が言うと諸将が声高らかに答える。
「当分の目標は伏見城。鳥居元忠、松平家忠らが籠っておる。それと並行して北陸の平定を刑部が主導してくれ」
秀家に命じられ吉継が頭を下げる。
「北陸方面にはどれほどの兵力を割くのだ?」
「はっ。越前・加賀・西近江・若狭の軍勢を形部に預けます。それから福知山の小野木に丹波・丹後・因幡の軍勢を付けて細川幽斎を討ちます」
意気揚揚と堀秀政の質問に答える三成に信親が顔をしかめる。
「形部には悪いが今回の戦は御公儀の戦。軍勢を率いる者は最も格式の高いものが率いるべきと存ずる。北陸方面の総大将は大溝宰相殿にお任せしたいのだが……」
「えっ、私ですか?」
突然名指しされた織田信重が驚いたように言う。
「大溝宰相殿は小松宰相とも親しく加賀中納言とは同じ釜の飯を食った者同士。そちらの方が相手の動きを読みやすいと思うのだが」
「某は構いませぬ。作戦を立案するならともかく戦場に出向いて指揮する事はもはやこの身体では無理にございます」
吉継はもう目が殆ど見えておらず、杖が無いとまともに歩けない程に弱っている。
本人としても大軍を指揮するのが辛いのは三成らも察していたようで異論を唱えない。
「皆が良いなら私はそれで構わぬ。お任せ出来ますか、大溝殿?」
「ははぁ。皆様がそう申されるなら微力ながら総大将のお役目、受けさせて頂きます」
「まとまったようだな。次に細川幽斎だがこちらは放っておいて良い。備えの兵を二千程残して丹波勢らも伏見に投入した方が良い」
「いや、それは……」
「内府は必ず野戦で打ち破ろうとしてくるはずだ。野戦ならばこちらの手数は多い方が良い」
「承知致しました……。では備えとして前田主膳正殿の手勢を残して残るは伏見へ」
三成が言うと正家が駒を動かす。
「大坂に居る内府方の大名連中の妻子を人質に取るべきでしょう。特に伏見には内府の側室らが幾らか残っていると聞きました。これらは即刻処刑致しましょう」
三成が大人しくなったのを見て如水が前に出てくる。
「それは良い案です。但し、甲州の妻と母も人質に取りますぞ?」
「嫁に関しては好きにされよ。但し母となると話は別ですな」
この二人の関係はやはり絶望的だ。
暫く睨み合いが続き諸将は黙り込んだ。
「ならこちら側も皆、大坂にいる妻子を人質に出すのは如何かな?さすれば治部殿も納得されるだろう?」
沈黙の後、立花宗茂が提案する。
「おお、それは良き案じゃ。御味方の裏切りを防ぐためにもそう致そう」
島津義弘が同意すると諸将も頷く。
「なら全員人質は差し出すという事で。ひとまず今日の軍議はここまでじゃ。人質の確保が終わり次第、伏見に攻め込む。良いな?」
「おう!」
秀家が締めくくり軍議は終わった。
そして翌日、家康の側室達が処刑され各地の大名たちの妻子が人質とされたのだが……問題が出てきたのだった。




