73話
信親の動員命令は一斉に西国大名に通達された。
なお龍造寺家などの肥前の大名は大陸への警戒から軍役は免除され島津家も本来の軍役の一万の半分の五千のみの軍役で許された。
家康率いる第一軍が出立するのと入れ替わりで続々と西国の大物大名が大坂に集まった。
せっかく大物が集まったのだからという事で信親の屋敷で西国大名を集めての宴が行われた。
参加者は毛利輝元、島津義弘、堀秀政、立花宗茂、小早川秀包、香川親和である。
更に信親にとって想定外だったのは黒田如水まで来ていた事だ。
「クロカン殿まで来られるとは思っておらんかったわ」
「徳川様に土佐殿をお支えするために少数の兵で良いから出陣してくれと頼まれましてな。上杉景勝自身は大したことは無くとも兵は強うござる」
「景勝も阿呆じゃな。迎え撃つのではなく長宗我部様に助けを求めれば良いものを」
輝元が呑気にそんなことを言う。
「ふん、10年戦もせずにぬくぬくと過ごしてやった奴らなど恐るるに足らぬ。しかし徳川勢は苦戦するかものう」
秀政が言うと諸将から笑い声が飛ぶ。
西国大名と東国大名の軋轢もかなりのものだった。
「申し上げます。増田様から書状が届きました」
「何、今は宴会の最中だぞ。さては右衛門尉め。自分も参加したいとかか」
ヘラヘラしながら書状を受け取った香川親和だったが、それを開けた途端に目を丸くして立ち尽くした。
「何が書いてあった、五郎次郎!」
そう言って書状を拾い上げた小早川秀包もソレを見て驚く。
「なんと書いてあった!」
「内府違ひの条々……。徳川家康を討つ為に宇喜多様、三奉行、石田治部、大谷刑部が挙兵したと書いております。我らも即刻軍勢をまとめて大坂城西ノ丸に向かえと!」
「何をふざけたことを!」
「小西行長、福原長堯、毛利勝信ら九州諸大名もこれに従うとの事にございますが……」
秀包の読み上げる内容に困惑する諸大名。
それを見た信親は立ち上がる。
「俺は一旦、宇喜多らに従う。そのうえで彼奴らが役に立たないと思えば斬り捨てて内府共々討ってしまおうと思うが?」
「なるほど、上杉や宇喜多より内府に従う一派を根絶やしにした方が儲かるな」
秀政が言うと諸将も頷く。
「決まりのようだな。兵を集めて大坂城下に集合せよ。俺は宇喜多殿と話をつけてくる」
「ははっ!」
皆がそう言って退席するものの如水は1人、残っていた。
「倅の事が気になるか?」
「否、国許に戻り天下を目指すかを考えておりました」
「はっはっはっ、天下のう。確かに我らと宇喜多ら、そして内府が痛み分けとなればそなたも天下取りに名乗りを上げることが出来るかもしれんなぁ」
「されどなかなか難しいですな。こちらが傭兵を掻き集めたとしても九州には龍造寺と島津の大軍がまだ残っております」
「ふん。お主の考えることくらいお見通しよ。今の豊臣家で天下への野望がある者は3人。徳川内府、大崎少将政宗……そしてお主だクロカン」
「くくく……内府の指示に従った時点でワシの負けのようですなぁ。然らばこの如水、土佐様にお仕えし内府を討ち果たしましょう」
そう言って如水は深々と頭を下げる。
「良いのか?治部も小西も居るぞ。それに倅が敵となるのだ」
「ワシは自分の命が1番ですからなぁ。播磨時代の重臣の大半は手元におりますゆえに」
「末恐ろしい男だな……」
黒田官兵衛の対策のために島津と龍造寺を配置しておいたがその必要は無くなった。まあ今から呼び出す訳にも行かないのだが。
一方の官兵衛は信親が裏切るとは思って居なかったので家康に出鼻をくじかれた事になった。
こうして史実に存在しない関ヶ原の戦いが幕をあげるのだった。




