71話
大坂に戻ると信親は即座に家康に呼び出された。
西ノ丸に入ると三奉行も勢揃いしている。
「ははは、また戦ですかな」
「左様、上杉を討つ。此度は確実にな」
家康がそう言って増田長盛に目をやると長盛が信親に書状を差し出す。
「ふむ、直江山城からの書状ですか。随分と罵詈雑言が並べられておりますな」
「あの青二才め。景勝に寵愛を受けておるだけで図に乗っておる」
「そこで徳川様が御自ら諸大名を率いて出陣される事になりました。長宗我部様は西国大名を率いて越後より会津を目指されませ」
長束正家がまたも駒を動かす。
「そういえば越後侍従が堀宰相を通して上杉が領内を荒らして迷惑と申しておったか。しかし西国大名は誰一人として動かないでしょうなぁ」
「なに!頭が高うござるぞ長宗我部殿!」
三奉行の反対側に控える本多正純が立ち上がる。
「黙らっしゃい!先の加賀征伐のせいで俺は堀や丹羽から信用を失っておる!どうせ此度も徳川様にとって都合が良くなればさっさと和睦されるのでしょう!我らは豊臣家の家来であって徳川様の家来ではござらぬ!」
「ならば次は貴殿を攻めることになるぞ……!そうじゃ、次は長宗我部を攻めるぞ!」
直江兼続のせいでイライラしているのに信親に怒鳴られて家康も立ち上がる。
「お主の事を心配して申しておるのじゃ!こうも身勝手では天下の差配を殿下から任されたとはいえ誰も着いてこぬぞ!そのような事も分からぬか、このアホたわけ!!」
「ええぃ、小僧め!去ね!今すぐ帰れ!」
「ああ、帰らせて頂く!」
「長宗我部様!」
三奉行の呼び止めを無視して信親は西ノ丸を飛び出し、屋敷に篭ってしまった。
「はぁ……それで徳川様に宣戦布告されるとは……」
本山親茂が呆れたように言う。
「うーむ、ちとまずいかも知れんなぁ。大坂が焼け野原になるかもしれぬ」
既に畿内周辺の諸大名には信親堂々退場すとの情報は出回っており親長宗我部派の堀や立花、島津らにこの情報が出回るのも時間の問題であった。
「将監、謝りに行くべきか?」
「当たり前でしょう。殿がどう考えても悪いでしょう」
「うーむ、承服出来んなぁ」
信親と親茂の議論が平行線を辿っていると福留政親がやって来た。
「申し上げます、徳川内府様が参られました!」
「何!?」
長宗我部屋敷に激震が走るのだった。




