67話
宇喜多家で騒動が起きた。
直家以来の宿老と秀家の従兄の詮家が宇喜多家を出奔したのだ。
更に翌月、前田利長が秀頼守役の職務を放棄し加賀に帰国し浅野長政、大野治長らと共に謀反の企てがあるとして徳川家康は在京中の信親と三奉行を呼び出した。
「加賀中納言が謀反なのは誠の事なのですか?」
流石に無理があると思っている、というか家康の言いがかりな事を知っている信親は怪訝な表情で聞くが三奉行は本当に信じている様子だ。
「恐らく加賀中納言は昨年の騒動の際に父の加賀大納言が言いくるめられた事を逆恨みし謀反を計画しているのです。宇喜多の騒動も前田の策謀でしょう」
長束正家が食い気味に説明する。
大人しい男かと思われていたが案外交戦派のようだ。
「そういう事じゃ。征伐軍は越前と越後から侵攻する。越前方面の総大将は土佐殿、越後方面の総大将は我が倅に任せようと思うが?」
「謀反という事ならば喜んでお受け致します。では陣立の方は?」
「申し上げます。丹羽宰相様、長谷川権介様が参られました」
どうも話を信親が知らない間に進めていたらしく、家康家臣の本多正純に案内されて加賀の丹羽長重と長谷川秀成の家老の長谷川秀康がやって来た。
「内府様、土佐殿におかれましては益々のご健勝のことお喜び申し上げます」
さすがは丹羽長秀の嫡男、礼儀作法も整っており丁寧な挨拶をする。
長谷川秀康の方は長重よりも数段格が劣るので末席に控える。
「五郎左様、此方へ」
元々は長重の家臣であった長束正家に通され長重は信親の対面に座る。
「さて、丹羽殿に長谷川殿。貴殿らをお呼びしたのは他でもない、前田利長の事じゃ」
「既に聞き及んでおりまする。利長めとは某少なからず遺恨がありまする。何卒、先鋒をお申し付け下され」
「話が早いですな。先鋒は丹羽様を大将にして加賀越前の軍勢を付けましょう」
前田玄以が言うと家康も頷く。
「利長討伐の暁には加賀は貴殿のものぞ。長谷川殿は越中方面の先鋒をお任せしたい。主にお伝え頂けるかな?」
「ははっ!」
「はっ」
若い長重はかなりやる気のようだ。
加賀方面は激戦になるかもしれないと信親は腹を括る。
「さて、第二陣ですが加賀方面は織田大津宰相様を大将に石田治部、朽木元綱、手前らの軍勢を付けます」
長束正家がそう言って地図の上に置かれた駒を動かす。
今回の戦で石田三成や七将の蟄居は解除されるようだ。
「第三陣は岐阜中納言様を大将として美濃の軍勢、第四陣は清須侍従殿を大将とした尾張伊勢の軍勢、そして第五陣は長宗我部様と西国の諸将にお願い致す」
「越後方面は某から。長谷川様を一陣として第二陣は先日川中島に入られた森侍従様を大将とした信濃の軍勢、第三陣は吉田侍従様を大将とした東海道の軍勢、第四陣は結城秀康様を大将とした北関東の軍勢、第五陣に江戸中納言様が率いる本軍が」
正家の説明が終わると家康の脇に控えていた井伊直政が駒を動かす。
「ほほう、総勢10万を超える大軍となりましょう。これなら利長もあっという間に滅ぼせますな!」
「どうじゃ、土佐殿。貴殿もこれでよろしいか?」
「ええ、あ……一つ問題が……」
そう、宿老の1人を滅ぼすという事は後釜が必要となる。
そしてそれを求める男が一人。
「堀様!困りまする!」
家康の家臣たちのそんな悲鳴が聞こえてきた。
「ああ、やはりな……」
信親は頭を抱えた。
まもなく招かれざる客、堀安芸宰相秀政がものすごい剣幕で部屋に入ってきた。




