54話
「土佐宰相、小吉(秀勝)。よく来た」
秀吉に呼び出された信親は静かに頭を下げる。
処分は甘んじて受け入れるつもりだが秀勝を庇うようなら一戦する覚悟でこの場まで来た。
対する秀勝はしてやったりというような顔で信親をチラチラ見ている。
秀吉に事前に面会して色々と吹き込んだのだろう。
「御両人、これより殿下の裁定を降す」
頭を下げたままの二人の前に三成が立ち書状を広げる。
「此度の羽柴土佐参議、豊臣美濃中納言の騒動。非は美濃中納言側にあり土佐参議は殿下の命を受けて美濃中納言の兵の不始末に対処した迄の事。兵の不始末は大将の不始末であり関白殿下の弟として意識に欠ける行動である。よって美濃中納言秀勝は高野山へ追放し所領は召し上げ、以降の軍勢の指揮権は織田中納言(秀信)に預け所領も織田中納言へ与える」
「は?」
想定外の結果に豊臣秀勝は口をぽかんと開ける。
「対馬に関しては土佐参議に一任したワシに責任もある。今後は増田長盛、垣見一直ら奉行衆を交代で付けるのでそやつらと相談して対馬のことは決めよ」
「はっ、はは!」
感激して頭を下げる信親に対して秀勝が立ち上がる。
「承服しかねませぬ!なぜ俺が改易になるのですか!」
「たわけ!関白殿の弟ならそれ相応の振る舞いがあろうものを他大名の一門衆を斬り付けるなど言語道断!本来なら打首にしてやりたい所を姉上と関白殿に免じて許してやったのじゃ!さっさとワシの前から去ね!」
なおも何か言いたげな秀勝の後ろに平野長泰ら馬廻り衆が集まる。
それを見た秀勝は悔し涙を浮かべながら部屋を出ていった。
「しかし誠によろしいのですか?岐阜中納言殿をこの戦が終わったら朝鮮の関白にするとか噂を聞きましたが」
「む、耳が早いな。それだが八郎(宇喜多秀家)を朝鮮に入れることにした。実は茶々が懐妊しての。その子が男児ならば関白殿とその子の2人に日ノ本を治めさせる事にした。いずれは関白殿の娘を我が子に嫁がせてその子を関白とする。さすれば貴殿は天下人の叔父じゃ」
「なんと恐れ多い事にございます。よもや土佐の田舎侍からここまでの栄誉を得られようとは……」
「小吉よりお主の方が功績もあり血縁も近い。何よりもそなたの方に分がある。もはやワシが血迷うてお主を罰すると思うたか?」
「お戯れを。殿下なら正しき裁定をして下さると信じておりました」
嘘である。
普通に一戦する覚悟で来ていた。
「まあともかく今後も頼りにしておるぞ、弟殿」
「ははっ。義姉上にもよろしくお伝えくだされ」
信親は改めて頭を下げると名護屋から対馬に戻った。
それから暫くして豊臣秀勝は失意のうちに病死し、秀吉の待望の次男である拾が生まれたのだった。




