12話
「殿下、ご拝謁が叶い恐悦至極に存じ奉ります」
先に大坂城に入った信親は秀吉に頭を下げ挨拶する。
「うむ、遠路はるばるご苦労。して何用じゃ?」
「はっ。此度は殿下にお願いの儀があって参りました次第。されどその前に土佐より献上したき物があります」
「ほう、物でわしを釣ろうとするか。だが並のものでは喜びはせんぞ?」
「それならご安心を。きっとお喜びになられるでしょう」
信親がドヤ顔で言うと石田三成がかなりビビった顔で出てきた。
「で、殿下!大変にございます!大坂湾に化け物が!!!既にこちらに迫っておる模様!」
「なっ、何!!」
秀吉がすぐに城の外を眺めるとすぐにソレは見えた。
たくさんの群衆の中央を進む見慣れないモノ。
「あっ、あれは……」
「南蛮では大切な人への貢物をプレゼントと言います。これはワシから殿下へのプレゼントでございます!」
「はっはっはっ!鯨を献上するとは流石は元親殿の息子よ!それに南蛮の言葉も理解するとはあっぱれなり!さあ、何でもくれてやるわ!」
信親は完全に秀吉の心を掴むことに成功した。
その後信親の要望に応えた秀吉は藤堂高虎を奉行として畿内の大工などを送り米100石を浦戸から大坂へ運んだ者へと分け与えた。
こうして大高坂城は近世城郭へと変化していき、3年後に本丸が完成するのであった。
さて、その1年後に秀吉が唐入りを諸将に命じた。
信親は五番隊として福島正則の指揮下に入り朝鮮へと渡った。
とはいえ任務は物資の補給ルートの確保や後方支援など先に出陣していた加藤清正や小西行長らと比べれば非常に楽な仕事であった。
その最中、軍議の時のことである。
福島正則が飛んでいる鳥を指さして言った。
「ん、鎌倉の武士共は沖を飛んでいる鳥を矢で射抜いたそうじゃ。今は如何であろう」
「近頃は矢よりも便利な鉄砲があるからのう。鉄砲で射抜くのではないか?」
と、信親。
「聞けば土佐は鉄砲の名手が多いというが是非とも見てみたいものよのう」
「ふむ、ならワシに任せよ」
と史実なら元親が足軽に任せたところを自分からやり始める信親。
生駒親正と蜂須賀家政は流石に無理だろうと言う顔をしているが正則だけはバカなのか良い奴なのか期待の目を向けていた。
だが前者2人の予想とは逆に信親はあっさりと飛んでいた鳥を撃ち落としてしまった。
これには3人も驚きである。
「おっ、お主!相撲大会の時から思うておったが武勇の天才ではないか!いやー、あっぱれ!なんでも欲しいものをお渡ししよう!」
と正則が言うのでしめた!という顔でニヤニヤしながら信親は答える。
「ならばそなたのその槍が欲しいのう……」
「いっ、いや……そっ、それは……」
信親が欲した正則の槍とは天下三名槍の1つの日本号である。
秀吉より正則に与えられた福島家の家宝同然の物であった。
「うーむ、それはちと厳しいのう。なにせ殿下から頂いた家宝にござるし……」
「はは、冗談じゃ。褒美など要らぬよ。それより俺と飲む時は酒を控えてくれ。」
これは割と本気の信親の願いであった。
連日のように正則に付き従うことになる以上、賤ヶ岳の七本槍を1万回は聞かされるはずである。
それを避けることは朝鮮で手柄を上げるより重要であった。
「ふん!容易い事じゃ!ガハッハッハつ!」
正則の下品な笑い声を耳に入れながら必死に心の中で祈る信親であった。