42話
香宗我部親泰の討死以降、豊臣軍は府内から全く動かなかった。
臼杵にも島津軍は手を回したが大友宗麟に撃退され、両軍は膠着状態になった。
しかし筑前方面では堀秀政、黒田官兵衛、毛利輝元らが各地の諸城を落とし遂に3月には豊臣本軍が九州への上陸を始めた。
それを受けて島津軍は撤退を始めたのだが……。
「今こそ好機!叔父上の敵をとる!!」
親通が勢いよく立ち上がる。
「殿、ここは好機!我が方には未だに二万八千の軍勢がおりまする」
親茂すらもそれに続く。
「よしっ!行くぞ!」
そろそろ籠城にも耐えていた信親もこれを承認。
長宗我部軍は一気に島津勢に襲いかかった。
「狙うは後続の島津家久の首じゃっっ!土佐のいごっそう共よ、我に続けぇぇぇっっ!」
秀吉より与えられた内黒記に股がった信親を先陣に長宗我部軍は島津軍殿の猿渡信光を捉えた。
信光の軍勢は二千人程であったがそれに二万八千の兵が突っ込んできたのだ。
どれだけの名将であろうとも耐えられない。
あっという間に信光は討ち取られた。
だが長宗我部軍はまだ手を緩めない。
更には島津歳久の嫡男の島津忠隣の軍勢にも襲いかかる。
相手はほぼ初陣の若造でこれも耐えられずに河野勢に討ち取られた。
そして遂に信親率いる先頭部隊は島津家久の軍勢を捉えた。
「逃げるな、島津中書!叔父上の仇を取らせて貰おうか!!」
「長宗我部土佐宰相か……面白い!相手になろう」
家臣たちの制止を振り切って島津家久は槍を構える。
信親の方も薙刀を家久の方に向ける。
「いざ参るっっ!」
先にしかけたのは信親だった。
薙刀はほぼ水平に家久の脇腹を狙う。
「ムンッ!」
しかし流石の家久、槍先でそれを受け流すと逆に槍を振り上げ信親の姿勢を崩し信親の胸を狙う。
ザシュッ!
寸前で交わしたものの肩に槍が掠れ鈍い音と共に信親の右手に血が流れる。
「まだまだ若造だな。ここで死なせるのが惜しい」
「オッサンこそ、そろそら引退した方が良いんじゃないか?」
一瞬の隙に信親は家久の腹に薙刀を突きつける。
「グッ……!だがまだだ!」
しかし40代に片足を突っ込んだ当時としては老人の家久とまだまだ若い信親ではスピードが違う。
連続で家久に薙刀による斬撃を食らわせる。
「貰った!!」
よろめく家久の首に信親は強烈な一撃を加える。
鈍い音と共に家久の胴体から血が吹き出し首が飛んでいく。
「島津家久、この長宗我部参議が討ち取った!我、香宗我部安芸守の仇討ちに成功したりッッ!」
家久撃破を聞いた長宗我部軍の指揮は更に上昇。
島津軍はこの撤退戦で家久軍二万のほぼ全員を失うという大損害を出し九州征伐の情勢を決定づけたのだった。




