38話
「長宗我部様!鶴ヶ城から援軍要請が幾度も来ております。兵を送りましょう!」
府内城下の教会で仙石秀久が信親に強く進言する。
一方の信親は南蛮から輸入されたであろうソファーでくつろいでいる。
「野戦はせぬ。この府内を守り抜く事こそ我らの努めぞ」
「しかし!味方を見捨てては武士の誇りに……!」
「仙石殿、貴殿は未だに羽柴家与力の仙石権兵衛の気分かもしれないが今の貴殿は備後国主。立場を弁えられよ」
史実では秀久13万石、長宗我部10万石であったがこの世界では秀久10万石、長宗我部100万石と石高、官位ともに圧倒的な差がある。
不満がありそうだが秀久は引き下がった。
「加藤嘉明と脇坂安治はなんと申しておった?」
秀久が出ていったのを確認すると信親は親茂に聞く。
「どちらも黙り込んでおります。まあどちらも指揮官としての経験は少ないので……」
「何故か最年少の俺が最も状況を理解しておる。不思議な話よ」
ぶっちゃけた話、信親は大友宗麟はここで死んでも問題ないと考えていた。
来年に死ぬ人間のために多くの兵を死なせることは合理的ではない。
宗麟に対してすらこの考えなのに鶴ヶ城など一々気にかけてはいられない。
「良いか、島津と野戦をしてはならぬ。どうせ殿下の援軍が上陸すれば島津はしっぽを巻いて逃げ帰る。薩摩兵は大して強くないからの」
さてその頃、島津義弘は島津義久からの命令書を見ていた。
「兄上はなんと?」
脇に控える軍師的存在の島津歳久が聞く。
「又七郎(家久)が鶴ヶ城を落とし次第、府内を攻めろとの事だ」
「府内には三万の長宗我部軍が居ると聞きますが……」
「それを釣り出し又七郎の軍勢と共に包囲殲滅する。さすれば秀吉も我らの実力を認めよう」
「左様に簡単に釣れるのですかな」
「うむ、だからこそお主に相手側の軍勢を探らせようと思っての。相手側でつけそうな所を調べてくれぬか?」
「承りました。密偵を送り込みましょう」
こうして島津軍も着々と作戦を進めるのだった。




