1話
長宗我部信親に令和の高校生が転生して22年が過ぎた。
転生前の醜い姿とは違う容姿端麗で高身長、なおかつ父元親の英才教育を受けた彼は四国統一戦で大活躍し、家中の人間からの絶大な支持を得て後継者としての立場を確立していった。
その後の羽柴秀吉に降伏した長宗我部家に試練の時が訪れていた。
戸次川の戦いである。
だがここで未来を知る信親は真面目に戦わず大した損害も出さず撤退するも仙石秀久は壊滅的な被害を出し十河存保はやはり討死。
激怒した仙石はこれを秀吉に報告し、長宗我部親子は小倉に呼び出された。
ここから始まる物語が戦国……そして日本の未来を変えることなどまだ誰も知らない。
「さて、長宗我部殿。申し開く事はあるか?」
石田三成が鋭い目付きで平伏する長宗我部親子を睨みつける。
2人の前には暇そうに扇子を仰ぎながら欠伸をする天下人・豊臣秀吉がいた。
「はっ。島津軍の戦を見るにあの者らは囮を使うて相手方を引き寄せ、一気に殲滅する作戦を多く用いております。其れに我が方、二万と言えど大友勢は士気は乏しく動くことができるのは我ら四国勢六千しかおらず、真っ向から衝突して勝てるわけがないと仙石様に進言致し申しました」
「それ即ち、仙石殿に責任がありと申すのか?」
信親の返答に三成の横に座る加藤清正が圧をかける。
元親はただ、平伏している。
「然に非ず。殿下の命に背き、川を渡った時点で我ら全員に責任があると存じ奉ります。もしも殿下が腹を召せと申されるならこの信親、父と共に腹を召す覚悟にございます」
そう言って信親は秀吉の目を睨む。
「長宗我部殿、頭が高うござる!良くもぬけぬけとそのような事を……」
これを聞いて不愉快そうに思った清正が一喝する。
「はっ、これは失礼致しました。されど我らは軍令違反をした者、なればすぐにでもこの首を斬り落としくださいませ!」
信親は立ち上がり秀吉を睨みつける。
22歳の若輩者とはいえ180cmと当時では巨人並みの彼の剣幕は凄まじいもので三成ら奉行衆は凄んでしまった。
「ふん、情けないのうお主ら。先程までの態度はどこへいった?」
と、ここでやっと秀吉が口を開く。
「弥三郎よ、お主は仙石が川を渡れと申したのに反対し、あくまで損害を減らすためにあのような戦をしたのだな?」
「はっ、左様にございます!」
「なら何も咎めることは無い。但し、簡単に腹を斬るなどとは今後二度と口走らぬ事だ。親父殿が悲しむ」
見れば平伏する元親は少し焦ったのか汗を流している。
「はっ、申し訳ございませぬ。この汚名を晴らすためにも次なる戦では先陣を承りとうございます!」
「威勢が良いのは結構。しかしそれは既に決まっておる。長宗我部勢は肥後方面の後詰に回れ」
そう言うと秀吉は席を経ち陣へと戻って行った。
三成らはそれを追い部屋には長宗我部親子が残された。
「ああ、命拾いしましたなぁ」
誰もいなくなったのを確認すると信親がぐったりとする。
「何を言うか。冷や汗を書いたのはこちらの方じゃ。下手すれば打首であるぞ」
と、腰を痛そうにする元親。
秀吉よりは若いとはいえ彼は今年で50になる。
「いや、しかし仙石の悔しがる顔が目に浮かびますわい。これでは鈴鳴武者などと訳の分からんことを言われることも無くなりますなぁ」
「は?なんだそれは。とにかく陣に戻るぞ。皆が心配しておる」
仙石秀久の鈴鳴武者のパフォーマンスはここから3年後のことなのでまだ元親が知る由もない。
さて、そんな令和から来た信親だが歴史の知識はそれなりにある。
そのため今後の長宗我部家に起こる災いを回避する条件も大方分かっていた。
そしてその条件は今日、ほとんど達成された。
「いやぁ、どうなる事かと思ったぜ」
陣に戻り1人になると信親は寝転がって酒を口に突っ込んだ。
「ともかく、これで家臣の粛清もお家騒動も無くなるしあとは寿命が長くなるようにするだけだなぁ。徳川殿に薬の調合でも頼んでみるかぁ」
そんな感じで余裕ぶっこいている信親であった。