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スイ達一行は人目を避けて遠回りをしながらサルジアに向かうだろうとヤマトは言っていた。いくら強いとはいえ、ハガネ様も術者様も無駄に戦闘は繰り返したくないはずだ。だから、スイ達一行が出発して2ヶ月は立っているが、普段通りの道で馬を走らせれば追い付くはずだと。

ヤマトの言い分は一見筋が通っているように思えたが、いや…それおかしくないか?と俺は感じた。無駄な戦闘を避けるために隠れて向かうのは分かる。だが、それは目的地がばれてないときに有効な手段だろう?すでに敵方に目的地がばれてるなら一刻も早く目的地へと向かわないだろうか?遠回りして敵方が目的地で待ち伏せしてたら、戦闘は余計に困難になるはずだ。

俺は疑問でいっぱいだったが、何もつっこまずヤマトの言う通りにした。ヤマトは俺には教えてくれないが、きっとスイ達一行が遠回りすることに確信がある。だから、俺は黙って従うことにした。

店内で1番良い馬を購入してサルジアに向かうこともう1週間はたった。サルジアは国のはずれだから首都からたどり着くまでには5ヶ月はかかると言われている。先は長い。俺が愛馬に選んだ馬は茶色い毛とふわりとした黒いたてがみの馬だ。目は優しいつぶらな目をしている。


「まだまだ先は長いけど頑張ってくれよ。」


そう声をかけてると尻尾がブンと力強く動く。馬は賢いと聞いたことがあるけど、この馬はその中でも特に賢いと思う。ただの親バカなだけかもしれないが…。

それからまた進むこと3ヶ月。徐々に周囲が侘しくなってきた。侘しいとはまだ遠慮のある表現で端的に言ってしまうと貧しくてとても人並みの生活が出来るような場所とは思えなくなってきている。土地は枯れ果てて食物の成長は見込めなさそうで水は泥水しかない。人々の顔は疲れはててどこか虚ろな目をしている。

スイ達が人目を避けて遠回りする理由はこれもあったのだろうか。

彼らはこの世界を見捨てようとしているのだから、この世界で暮らす人々に極力会いたくなかったのだろう。少しでも決断が揺るがないよう罪悪感を持たないように。

実際のところはわからない。俺は彼らと話したことさえないのだからただ想像することしか出来ない。

俺は止まることなく先へと進んでいく。


「まだ子供はいるんだな。」


ぼろ切れを着た数人の子供を見つけ、俺は小さく呟いた。まだサルジアまで距離があるからだろうか。ぼろ切れを着ていて病気になってもおかしくないぐらいの不衛生っぷりだけどまだ彼らは生きていけている。サルジアは砂しかないから、きっと希望も何も持てなくなってしまうだろうから。

俺は周囲を見ることを辞めた。見たところで彼らを救うことは出来ないし、これから先の事を考えると施しをしてあげることも出来ない。何も出来ないのならば、見ない方がいい。


「何か恵んでください。食べられるものなら何でも。お願いします。」


子供の声が届いた。それでも俺は止まることなく横切っていく。この地の子供達は大人達よりもまだ生への希望を持っている気がする。大人達は疲れた顔と虚ろな目でいるだけでおこぼれを求めもしない。ただ死を待っているだけの気がする。

俺は自分の事を不幸だと思っていた。それは今も変わらないが、俺よりもこの地にいる人々の方が不幸に見えた。もしかしたら、崩壊の危機にさらされているこの世界そのものが不幸なのかもしれない。

とにかく手遅れになる前にサルジアにつかなくては。

俺は手綱を強く握った。



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