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神楽。

そう呼ばれただけで俺は泣きそうになった。

もう帰ることも出来ないと諦めていた世界への想いからなのか、ただの懐かしさからなのか分からない。呼ばれた名前と共に頭に浮かんだのは俺を無条件に愛し、大切にしてくれた家族だった。彼らは俺を失ってからどうしているだろう。もう立ち直って前へ進んでいるのだろうか、それともまだ悲しみに暮れているだろうか。必死に考えないようにしていた。考えれば考えるほど辛くなるし、考えたって帰れないのならば神楽陽一として生きた7年間に固執することは無意味だと思っていたから。


「君が生きているとは思わなかったよ。もし生きてると分かったら、すぐにでも探しだして会いに行ったのに。」


男の言葉で現実に引き戻される。この男は俺の本当の名前を知っていた。そして日本語を話している。


「それはこっちの台詞だ。お前は殺されたと思ってた。」


この男は俺と一緒にこの世界に召喚された同級生で、俺が見捨てたあの時の少年だ。ぞっとした。名を呼ばれて思わず心動かされたが、冷静に考えると会いたくなどなかった。


「魔導師様が保護してくれたからね。」


男は俺を恨んでいる素振りを見せるどころか穏やかに笑っている。


「あ、魔導師様っていうのは、僕らをこの世界に召喚した黒いロープを来てた人だよ。あの方はもともと僕らを殺すどころか危害を加えるつもりもなかったみたい。僕は電流を浴びせられたけど直ぐに治療してお城に保護してくれたし」


間違いなく危害加えまくってたな。

俺はあの日を思い返し、いまだに体が震える。危害を加えられたのは俺ではないが、確かにトラウマを植え付けられた。

よくこいつは電流を浴びせた男を信用できたな。保護してくれたとか言ってるけどそもそもこんな事態に陥れた張本人だろ。そこを忘れてないか?

いきなりの出来事に絶賛困惑中の俺を置いて男は続ける。


「今、僕は魔導師様の助手をしているんだ。この世界でちゃんと魔法を使えるのは魔導師様しかいないしね。そんな魔導師様の助手だから、少しは情報が入ってくる。」


何が言いたい。俺は無言で身構える。まさか革命軍のスパイだとばれたのか。それとも俺が異世界人だと城内では認知されているのか。


「全ての訓練において優秀な成績を叩き出す新人がいる。それも余力を残した状態で。」


「それが俺だってことか?」


俺は意図せず目立ちすぎたらしい。

仕方ないだろ!

王殺しの実行犯にするためにカルバルがここの訓練の何10倍も厳しい特訓を9年間もさせてきたんだから!!

そう叫びたいが言えるはずもない。


「黒髪と黒い瞳、顔立ちもどことなく僕に似ていると魔導師様から聞かされたんだよ。魔導師様が、もしかしたら君ではないかと心配して僕に確かめてくるように頼んできたんだ。」


心配とはどういう意味だ?俺が突然城に潜り込だから、何か騒ぎ立てる可能性があると考えたからか?それとも俺に対しての罪悪感からか?

男の言葉にいちいち突っかかってしまう自分にうんざりする。何故、俺の性格はこんなにひねくれてしまったのだろうか。俺とほぼ同じ事情のはずの目の前の男は、こんなに真っ直ぐそうな性格なのに。


「俺は給料に惹かれて入隊しただけだ。何も持ってない、後ろ楯もないただの孤児が、この世界を真っ当に生きていくのが大変なのは分かってるだろ?

で、その魔導師様に俺のことを報告したら、俺はどうなるんだ?」


「僕と同じように保護してくれると思うよ。魔導師様は僕らに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだから。でも、僕はそれよりも君に頼みたいことがある。」


男は真剣な面持ちで俺を真っ直ぐに見る。


「君のその身体能力を見込んでお願いするんだが、僕らと同じくこの世界に来たスイを捕らえて欲しい。」



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