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◇◇◇◇
ー散っていったか。
それは、自身が創った概念が消えた気配を感じ取った。
ある世界でワタリドリと呼ばれているもの。
ワタリドリは、それのお気に入りだった。
転生を繰り返す度に自身の近くに喚ぶぐらいに気に入っていた。
神となれる世界へ先に送り込んだのもデメリットを教えるためだ。
ーあれほど愛し愛されることに依存し、人との繋がりに固執していたというのに。
ワタリドリがあの世界に降り立ったのはまったくの偶然だった。それにさえ予想できなかった出来事で、興味深かった。
あの世界に飽き飽きし始めた頃だったから、久し振りに高揚したのを覚えている。
だからこそワタリドリが神となり、何千年という月日を1人で過ごしていたことが不思議であった。耐えられなくなって新しい生命を創り、己の存在を消すべくために行動するのかと思ったが、そうでもない。ワタリドリは、永遠に1人で孤独に耐えて過ごすのだと分かった瞬間、もう望みを叶えてあげようと思ったのだ。
ワタリドリは、それのお気に入りだから。
ワタリドリは気づいていたのだろうか。
術者が開いた異界への扉は、異界ではなく、それの元に繋がっていたことを。
神などという存在になりたいと願ったモノたちをあの世界に送り込んでいたのは、それだった。
本来は一方通行なのも、それが自ら造り上げた存在でない人では辿り着けない場所だから。
ーまさか、ワタリドリが人を送り込んで来るなんて。
ワタリドリが送り込んできたハガネと呼ばれた人をどうしようかと考え、とりあえず、ハガネの時を止めた。何千年も止めてから、再び元の世界へと送り返した。ハガネにとってはほんの一瞬の出来事。再び時を動かした時には目の前に元の世界への扉があったのだから。
ワタリドリが正式の神になった瞬間、ハガネはあの世界にいなかった。つまり、ワタリドリの物にはならなかった。
ハガネはワタリドリを殺すのか。
それとも己の寿命を迎えるまで共に過ごすのか。
興味深い。が、結果を知ってしまえば何と退屈なのか。
あの世界は神を失い、消えていった。新しい神を迎えるための力を持つ人さえ存在しない。世界が崩壊するまで、ハガネは何をしていたのか。
ただ泣いていた。
自分に失望していた。
ハガネを救う気にはならない。
ハガネはそれのお気に入りではない。
本当につまらない存在だった。
ワタリドリは面白かった。
色々な姿を持ち、概念なのに繋がることを望み、平和を好み、何度も何度もそれの元に還っては再び繋がりを求め、転生する。
ーまたワタリドリを創ってみようか。
それは新しい概念を創ることにした。ただし、以前のワタリドリとは似て非なるものを。
その概念がどこに居着き、何になるのかを見ることが新しいそれの楽しみだ。
あの世界はもう飽きたから、再築する気はまったく起きないが。
確かに感じる高揚のままにそれは創り始めた。