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◇◇◇


自身を崇め奉る人々を無視した。

争い続ける人々に干渉しなかった。

その結果がこれなのか。


ワタリドリはスイの姿に戻る。

神になってからもう何千年たっただろう。

スイを覚えている者はすでに消え、神の存在を信じるものもいない。それどころかこの世界の住人はもう滅んでしまっていた。スイはひとりぼっちになってしまった。

何処にも飛んでいけない。自らの意思で死ぬことさえも許されない。永遠に続く孤独にスイは耐えなくてはならない。

遠い昔の記憶を思い出す。術者がいた。ニゲラがいた。ヤマトがいた。そして、ハガネがいた。もう誰にも会えない。みんなスイの前から消えてしまった。

スイは、もう誰もいなくなった城へと向かった。城は廃墟となってからかなりの年月を経ていて、屋根を失い、建物としての機能を果たしていない。

カルバルは市民たちと元革命軍達によって処刑されたらしい。それはスイが人々の前から立ち去って1年もしない出来事だ。


「争うことが人々の本質なんだね。」


争って争って争って…。

そして勝手に滅んでいく。

人は滅びへと自ら歩んでいくのだろうか。

大なり小なり人々は競い争いながら存在価値を示している。


「どうして……。私はただ誰かに愛されながら、幸せにいきたかっただけなのに。」


廃墟に1人残されたスイはそう呟いた。

誰に言うでもなく、誰かに伝わるはずもなく、誰からも返事もなく、スイは言葉を発する。

スイは再び7色の羽を持つ鳥に姿を変え、サルジアへと向かう。

始まりの地、サルジア。

久々に来たサルジアは、相変わらず砂しかない砂漠で何も存在していない。

ここで、また新しい命を創ろうか。

神であるワタリドリならそのくらい容易いことだ。

だが、そんなことしても虚しいことぐらいすぐに分かる。

ワタリドリは再び、人の姿スイに戻る。


「やっと見つけた。」


低い男の声がした。スイは声のする方を見る。和服の様な格好をした男。

スイはこの男を知っている。

忘れるはずがない。

ハガネだ。


「約束を果たしに来た。」


「約束?」


スイはハガネの言葉を繰り返す。約束とは何のことだろう。それより、何故ハガネがここにいるのだろうか。彼はワタリドリである自分が別世界へと送りこんだはずなのに。


「俺は再び異界の扉をくぐり、この世界に帰って来た。」


「そんな事…」


「出来たんだよ。別世界ではそれが可能だった。そして、今この瞬間に扉は繋がっていた。」


詳しいことは何も分からない。けれども、ハガネは今ここにいる。それだけで、スイは嬉しさでいっぱいだった。

ハガネは腰に携えた刀を抜き取る。


「この世界から解放する。その約束をやっと果たせる。」


スイはあぁ、と何千年も前の記憶を思い出す。たしかに、スイはハガネに殺してくれとお願いした。ハガネが振り上げた刃は日の光を浴びて美しく輝いている。

スイは笑っていた。振り下ろされた刀はとても痛く、苦しく、噴水のように飛び出された血は赤く、自身が人であったことを感じさせてくれる。

やっと、解放される。痛みと苦しみで薄れていく意識の中でスイは幸福を感じていた。


「ありがとう。」


神を殺すことができるのは異世界人だけ。それは同時に神を救うことができるのも異世界人だけということだ。

ハガネは泣いていた。殺すことでしか救うことが出来なかった自身の至らなさと愚かさにうちひしがれて。

ワタリドリの骸は、光の粒となり消え去った。抱き締めてあげることさえ叶わないこの現実に1人残されたハガネは声を荒げて泣いていた。

神さえも失われた、ただ1人しかいない滅びを待つだけのこの世界で。



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