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「あの日、この世界に喚ばれたのはニゲラあなただけだった。」
スイはそう真っ直ぐに俺を見て告げた。ヤマトは最初から分かっていたかのように静かに俺の隣にいる。
「私たちはたまたま手を繋いでいたから異界の扉を越えてしまっただけ。もしあの時、私がニゲラと、もしくはヤマトと手を繋いでいなければ、ヤマトは巻き込まれなかった。」
スイはヤマトに頭を下げた。俺はどう頑張ってもあの時、異世界召喚の運命を逃れることは出来なかったようだが、ヤマトは俺と手を繋いでいたスイと手を繋いでさえいなければ、この世界に来なかったということらしい。
「ワタリドリは異界を越えることができる。それは自分1人で越えるだけではなく、誰か1人を連れて行くことができる。異界を越えるための媒介となることができるの。」
私はその事を忘れていた。
スイはそう言ってヤマトに謝罪した。
「もう過ぎたことだ。それに僕はその事をとっくに気づいていたよ。巻き込まれたのはニゲラではなく、僕の方だということを。ただ、それを受け入れるのにだいぶ時間がかかってしまったけれどもね。」
ヤマトは笑っていたけれども、何処か泣き出しそうな顔に見えた。
「神になってしまった私は、もうあなた達を元の世界に戻してあげることはできない。ワタリドリとしての能力は失われ、世界を越えることはできない。けれどあなた達が望むなら、あなた達しかいない新しいあなた達の居場所をこの世界の中で創ることはできる。」
「どういうことだ?天空にでも俺たちのための空間を創るってことか?それとも海の底に?」
「そう望むなら。」
要はこの世界の誰も足を踏み込むことが出来ず、存在を認識することが出来ない世界を創ってくれるということだろうか。
俺はヤマトを見た。ヤマトは少し困ったように首をかしげた。
「俺たちはたしかに居場所を求めている。だけど、それは俺たちだけの国がほしいってことじゃない。俺たちは王様になる気なんてさらさらない。」
ヤマトは俺の答えにこくりと頷いてくれた。ヤマトも同じ気持ちで大丈夫みたいだ。
「俺たちはちゃんとこの世界で生きていくよ。」
この世界の住人として。
スイはそう、と一言告げると姿を変えた。
人ぐらいの大きさの7色の羽を持つ美しい鳥の姿へと。
「私はこの世界の神としてあなた達の幸福を願っている。例えあなた達がこの世界から立ち去る日が来たとしても、幸福を願っている。」
スイは飛び立っていった。彼女が何処へ行くのか分からない。だが、もう二度と彼女と会うことはない予感がした。
「行こう、ニゲラ。」
ヤマトがそう声をかけ、俺たちは歩きだす。目的地も分からないが、それでも進んでいくことに決めたのだ。
7色の羽が空を彩る。俺もスイの幸福を願い続けることをひっそりと誓った。