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創造主。
その存在を確かにワタリドリである彼女は知っていた。
ただ、長い年月と共に忘れてしまっていただけ。
ワタリドリを生み出したのも今までの神々を生み出したのもこの創造主であり、皆が存在を忘れてしまっていた。
この世界を構築したのも創造主。
この世界に魔力を与えてくれたのも創造主。
ー何故魔力を与えた?
神を選ぶ権利を人々に与えるために。
創造主は自身が生み出した神々となる、人ならざる者たちがどんな世界を創るのか興味があったが、神々がその者たちをどう思うのかも興味があった。
「魔力は始めからこの世界に存在していたが、創造主のものであるから神々の物にはならない。」
そんな当たり前の事を人々はもちろん、神々さえも忘れてしまっていたのだ。神々さえも認識を憶えていられないほどに年月は経ってしまった。
「私は何度も世界への転生を繰り返す度に忘れてしまっていた。でも、新たな転生をする前に必ず創造主の存在を確認していたはず。この世界の神に君臨した時、私は創造主を思い出した。私は創造主によって生み出されたとき、この世界で神として死んだら、もう2度と存在することは出来ないと教えてもらっていた。だから私は別の平和な世界で転生を繰り返していた。」
平和な世だったら、苦しまなくて済むから。
平和な世だったら、愛して貰えるから。
「実際に私は幸せだった。一度生を終えてもまた何度も転生を繰り返し、人との繋がりを持ち続けていくことに喜びを感じ、依存し続けた。」
この世界に君臨した神は自分の好きなように世界を創って良い。ただし一度神になったら、自身が死ぬまで神を辞めることはできない。人ならざる者たちは、この世界の住人に喚ばれて神へとなるが、この世界の住人によって死ぬこともある。
「神は人々を支配しているけれども、同時に人々に神は支配されている。」
何度人々が苦しもうとも、何度神が入れ変わろうとも創造主はこの世界に関与しない。
もしかしたら、もうこの世界には興味を持っていないのかもしれない。
だが、彼女はこの世界を見捨てられなかった。
「私は幸せになりたかった。神になんてなりたくなかった。」
全てを思い出しても彼女の想いは変わらない。
「私にワタリドリと名を付けたのは創造主ではない。この世界の住人だった。私は一度、この世界に来たことがある。」
ずっとずっと昔。憶えている者は誰もいなくて、もう術者の持つ記録でしか確認することが出来ないが。
「以前この世界に来たときは、世界は平和だった。戦争で人々を殺しあうこともなく、神を崇め奉っていた。けれども、その時の神はもう存在しない。」
今はワタリドリである彼女が神なのだから。
彼女は姿を変えた。人ぐらいの大きさの7色の羽を持つ美しい鳥の姿に。
空を羽ばたくと7色の羽がひらりと地上へ舞い降りる。人々はその姿を見て喜んだ。ある者は、涙を流して喜び、ある者は空へ祈りを捧げ、またある者は、ただ彼女を見つめていた。