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◆◆◆◆


いくら表情は穏やかだとしても、ヤマトが俺に向けているのは明白な悪意だろう。この腹黒男に俺は声を震わせながら尋ねた。


「俺のことがそんなに嫌いか?」


「嫌いじゃないよ。ただ、僕と同じ気持ちを味わって欲しかった。僕が勇者ではないと知ったときの失望と同じ気持ちを…。」


「今の俺の、この気持ちがお前の失望感と同じだというのか?違うだろ。」


「同じだよ。信じていたことが間違いだったと思い知らされるこの感じは、僕が自分こそが勇者だと疑わなかったことと…。」


ヤマトは冷たい目で俺を見る。その目は俺への嫌悪感というよりも嫉妬のように見える。俺には分からない。何故こんな感情を向けられなければないのか。勇者など最初っからいなかったはずだ。


「僕はシヴァ神を倒せば勇者になれた。でも、僕の力ではシヴァ神を倒すことは出来なかった。勇者になるために革命軍に協力したというのに。」


「勇者になることが、そんなに大切なのか?」


「大切だった。でないと僕は何のためにここに連れてこられたのか、何のために今生きているのか分からないじゃないか。僕はこの召喚のせいで存在意義を失ってしまったんだ。」


アイデンティティーの確立を行いたかった。そういうことか?分からない。だが召喚によってヤマトが失って1番辛かったことは、平穏な日々や自身で選べる未来ではなく、自身の存在意義だったということだけは理解した。


「もう元の世界に帰れないのなら、自分で掴むしかない。そう思ってた。でも、君のせいでそれさえも叶わない。僕に与えられたのは、失望だけ。だから、僕と同じ気持ちに君を貶めたって許されるだろ?」


理不尽だ。そう思ったが、もうヤマトに怒る気持ちさえ起きない。ヤマトも辛かったのだ。辛くて、もがいて、足掻いて、今日まできたのだ。そう気づいたとき、俺は優しくそっとヤマトの肩に手を置いた。


「もう分かったよ。分かったから、スイの所へ行こう。ここにいる理由はもうないだろ?ここは少なくとも俺たちの居場所じゃないんだ。俺たちはとっくに全てを失っている。だから、ちゃんと俺たちの居場所を見つけよう。俺にはもう何もないけど、お前が必要だ。俺の事を理解してくれるのも俺の存在を認めてくれるのも、もうお前しかいないから一緒にいてくれ。頼むよ。」


自分でも何を言っているのか分からなかったが、ヤマトを拒絶することは出来なかった。ヤマトは直接手を下したわけではないにしろ、人を殺してしまっている。人としてあるまじき事を犯したというのに、それでも彼の望んだ物を手に入れることは出来なかった。これは同情かもしれない。同情だとしても俺はヤマトと共にいるべきだ。俺たち異端者はもう何処にも帰れないのだから。

ヤマトはポタリと涙を流した。何の濁りもない透明に澄んだその涙を俺は、美しいと思った。報われることはなくとも救われて欲しいと願った。そして、ヤマトはこくりと頷いて俺の手を握った。


「どこへいく。話はまだ終わってない!」


カルバルがそう叫んだが、俺たちは無視して出ていった。スイが何を俺たちに話そうとしているのか見当もつかない。だが、俺たちのこれからを考える上では聞かないといけない話だ。俺たちにはもう何もない。これからは自分で考えて選んでこの世界を生きていかなくてはならないのだから。


「ニゲラ、ごめんね。」


「もう、いいよ。あそこは最初っから俺の居場所じゃなかったんだから、気にしなくていい。」


「それもだけど、君を邪魔者扱いして、危険にさらしてしまって。」


えっと…どの事を言っている? 記憶を辿っていくが命の危険にさらされた場面が多過ぎて分からない。


「スイたちを追いかけに行かせた1番の理由は僕がシヴァ神を倒すための時間稼ぎとして城から遠ざけることだったけど、あわよくばハガネや術者たちと戦闘になって死んでしまえばいいと思ってた。そうすれば、異界人は僕だけになってほんとうの意味で勇者になれると思ってたから。」


ヤマトは本当に申し訳なさそうに告げる。

やっぱり、何かおかしいと思ってたんだよな…。世界の危機だと言ってたくせに追跡が俺だけだったし。だが、もう今はそんな事どうでもいい。

階段を降りきり、図書館へと向かう。何となくだが、スイたちはここにいる気がした。

案の定、図書館にはスイ、術者、神官、魔導師様が神妙な顔で座っている。


「カルバルたちに会ってきたのか?」


魔導師様の問いに俺たちは無言で頷いた。魔導師様はヤマトを睨み付けてからフーッと息を吐く。


「とりあえず座れ。スイ様から話があるそうだ。」


スイ様?

疑問に思ったが、言われた通りに指示された椅子に座る。


「まず私はこの世界の神になり、あなた達二人はこの世界の住人になりました。」


スイは静かに言う。そして、小さくごめんなさいと謝罪した。


「あなた達はもう異世界人ではありません。」



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