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1週間後に術者が城に来た。術者の来訪は、僕に会うことが目的だった。まだ若いが、威厳のある雰囲気に、彼は特別な存在だと実感させられる。それは羨ましくもあり妬ましくもあった。
「本当にお前の力でシヴァ神を倒せるのか?」
術者の言葉に僕はこくりと頷く。
「異世界人しか神を倒すことは出来ないが、見たところ、お前からは魔力を感じない。いいか?この世界の武器ではシヴァ神を殺すことは出来ない。剣に使われる鋼も縄も全てこの世界産のものである限り、シヴァ神に傷をつけることなど出来ないのだ。」
二ゲラは魔力を持っているのだろうか。そんな疑問を感じたが、僕は召喚された時から持ち歩いているシャーペンを術者に見せた。
「僕が召喚された際に持っていたものだ。攻撃力は低いが、怪我を与えることはできます。これで喉をさせば死ぬはずです。実際、僕の元いた世界ではこれに刺されて怪我をした事例がありますから。ちゃんと凶器として実証されているから大丈夫です。」
生死をさ迷うほどの事故の事例は聞いたことはないが、それは黙っておこう。まぁ、目に深く刺せば隙が出来るはずだし、首を締めれば死ぬはずだ。シヴァ神は腕は4本あるとは言え、人の形をしていると記述があったから、窒息死はするだろう。
「それなら大丈夫か…。神不在でも世界は1月は持つと記録にある。お前は半年で神を倒す自信はあるのか?」
サルジアに魔力を縛る鎖がある。それが術者の見解であり、サルジアまでの道のりは早くて5ヶ月。遠回りをして7ヶ月はかかる。術者が扉を開くことが出来るのは1度だけ。新しい神を迎え入れるためには現神不在でなくてはならない。つまり、スイをこの世界から解放すると同時に新しい神を迎え入れなくてはならない。
「半年あれば、僕はシヴァ神を倒すための準備は整い、僕とシヴァ神の戦闘は終わるはずです。」
術者は少し不安そうにしていたが、僕の提案を受け入れた。そして、ハガネ様とスイを連れて出発すると言って城を後にした。
僕が勇者になるためのシナリオはできた。後は実行するのみである。
そのためには、二ゲラを追い払う必要がある。
「まずは、革命軍に連絡だな…。」
カルバルに僕は不足の事態が起きたと伝えた。世界を維持しているスイがこの世界から消えるために動いている。しかも協力者にハガネ様と術者がいると。
「状況が状況だから、最強の軍隊でスイを捕獲しに行かないとならない。スイにこの世界からいなくなられると王殺しの話どころではなくなるしね。スイ捕獲隊に戦闘能力が高い二ゲラを加えたいがいいかな?」
カルバルは致し方ないと渋々了承してくれた。僕が、革命軍が問題なく城に潜り込めるように手配すると約束したことも理由としては大きいようだ。実際、僕は隊を編成せず、二ゲラしかスイを追わせてないのだが。
二ゲラなんて消えてくれればいい。異世界人の勇者は1人で充分だ。
そんな醜い感情を僕は隠しながら、魔導師様が長期で城を明ける日に革命軍を城に潜り込ませた。