16-4
革命軍に名を与える。
それがこの世界の王族を欺くための方法であることを僕は理解した上で了承した。
同時に王族を魔導師様を裏切る行為だということも覚悟の上で行った。
カルバルには太郎と、カルには二郎と、それから順番に三郎、四郎、五郎と全部で12人に名を与えた。まだ何十人と残ってはいたが全員分は用意しなくて良いと言われたので、僕はほっと胸を撫で下ろす。いくら思い付かなかったとは言え、流石に数字で適当に名付けたから良心が痛む。八郎辺りから申し訳なくなってきていたが、特に十一郎、十二郎には名を呼ばれる度に罪悪感しか抱けなかった。
実際に僕が与えた名前で、彼らを縛ることは出来なかった。それも魔力を使ったものからは気付かれることがない。
「本命は二ゲラだが保険は大事だからな。」
彼らの言う二ゲラに僕は会わせてもらうことは無かったが、僕と同じぐらいの少年だと聞かされ、二ゲラとは僕と共にこの世界に来た神楽君だと確信していた。
カルは神楽君こと二ゲラについて、本当に嬉しそうに話してくれた。異様なほどの身体能力に大人でも勝てないぐらいの戦闘能力。そんな実力を持っているのに威張ることなく、謙虚な姿勢で常に冷静で、人間性も優れていると。
特に訓練中でもカルのことも気にかけてくれて、本当の兄のような存在だと言っていた。
「二ゲラ一人でもきっと民衆を救ってくれる。だけど、僕も二ゲラと共にカルバルさんの抱く理想の世界へと民衆を導いてみせるんだ。」
目を輝かせながら語るカルを見ながら、僕は二ゲラを憎んだ。彼の存在はどこまでも僕を邪魔する。二ゲラさえいなければ、と何度も彼を呪った。
僕には他の人より秀でた特別な力はなかった。
僕には仲間はいなかった。
僕にはこんなに期待をかけてくれる人はいなかった。
妬ましくて、妬ましくて、妬ましくて。
だが、決して表に出すことはしなかった。ほとんどの革命軍のメンバーは二ゲラを強く信頼していたからだ。
「異世界人から名前を与えられることで王族の魔法が効かなくなることは、二ゲラには黙っているように。二ゲラに与えた任務はもっとも危険なものだから万が一の可能性を考え、慎重にいくべきだ。」
カルバルがそう告げると全員が真剣な面持ちでコクりと頷く。そんな革命軍の様子を見て、カルバルは満足そうに笑った。彼の目はとても大義を掲げて世界を救うことを目指している者の目ではなく、欲望に満ちた輝きを放っているように僕には見えた。
そんな男に騙され、従い続ける革命軍たちを心底馬鹿だと嘲笑い、それでも僕は僕自信のために彼らを利用する。形振りなどもう気にもしない。僕が勇者にさえなれば、全て清算される。そう自分に言い聞かせた。
後悔先に立たず。
その言葉通り、その時の僕は後悔することになるなど微塵も考えてなどいなかったのだ。何と哀れなのだろう。けれども、そう思えたのも全てを終えてからだった。