16-2
この世界に来てから6年が過ぎた冬の日。肌に当たる風が身を刺すように冷たくて、 空もどんよりとした灰色だった。僕は城下町を何となく歩きながら、空の様子とは真逆の行き交う人々の笑い声を聴いていた。その年は不作ではあったが、城下町の人々は楽しそうに飲み食いしている。その様子を見ているとこの世界がシヴァ神によって滅び行く運命にさらされているとはとても思えなかった。
「僕は何のためにここにいるのだろう。」
虚しかった。6年たっても僕は自分の存在意義を見出だせない。僕はこの世界の異端児であるなら、まだましだ。けれども、この世界の言葉を話し、この世界の常識を持つ僕は、この世界に馴染みきっていて、平凡な住人だと皆、思うだろう。いや…王直属の部下である魔導師様の身内であることを証明するボタンが着いたコートを着ているから、平民とは思われないか。実際、僕は異世界人であったこと以外平凡だ。何もない。それがどうしようもなく虚しく悲しい。
路地裏を見ると、飢えや病気で死にそうな人が多くいた。僕はそんな人たちにパンを1つずつ渡していく。そのパンを頬張る姿を見て、自分が嫌になった。そして、その場から逃げ出した。
「何故、逃げる?」
声をかけられ、振り向く。旅商人のような格好をした男は、不思議そうに僕を見ていた。
「善意で行った行為を何故、まるで悪いことをしたかのように逃げたのだ?」
「僕は優越感に浸るために行ったんだ。これは、善意じゃない。」
きっかけは哀れみだった。だが、僕は僕が与えたパンを頬張る人を見て、自分が満足したのを感じた。正しいことをした。人を救ってやった。そう思った。これは善意ではなく偽善だ。それに気づき、自分が嫌になった。 僕が与えたそのパンは民衆の税金で買ったもので、僕自身が自力で手に入れたお金ではない。
「優越感に浸ったっていいじゃないか。それのどこが恥じることなのだ?人は誰だって、上に立ちたいものだろう?」
「違う!僕は…。」
言葉が続かなかった。何と言えばいいのか分からなくて、自分の気持ちが分からなくて、口を閉じた。
「お前は一体何になりたいのだ?」
何になりたい?そんなのは決まっている。
「僕は世界を救う勇者になりたかった。」
男はニヤリと笑う。
「お前を勇者にしてやる。ただし、本当の名を私に教えてくれればの話だが。」
男の言葉に僕は反応した。
こうして僕は革命軍カルバルと手を組むことにした。