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◇◇◇


「異界への扉を開けて。」


スイの言葉にハガネと術者はビクッとした。


「開けてどうするんだ?」


ハガネが尋ねた。扉を通り抜けることなど出来はしないはずなのに。


「いいや。きっと通り抜けられる。この魔法はこの世界を維持するために私を死なせないための呪いだと思ってたけど、そうじゃない。」


どういうことだ?ハガネは術者を見る。術者も訳が分からず、未だに気を失っている魔導師を見る。


「魔導師も誤算だったでしょうね。私はこの世界の神になるなんて。」


「どういうことだ?この世界の現神はシヴァ神だろ?」


この世界は1神教だ。神が2つもあるはずがない。


「本来ならね。召喚された直後はきっと神ではなかった。でも、世界と繋がることで私は世界を維持してたんじゃなくて、シヴァ神に私のエネルギーを与えてただけ。つまり、私のエネルギーを摂取され続けることで間接的にシヴァ神と繋がってたの。」


長い年月、シヴァ神がスイのエネルギーを自身に取り続けられながら過ごしてきたことで、スイもシヴァ神の一部として認識されたということ。それが神として認知されたのだと。術者はスイの推測に納得する。


「俺がスイを殺せなかったのは、不死だからではなく、この世界の住人だったから?この世界でスイが死ねなかったのは、スイが神だったから?」


ハガネは少し震えながら尋ねた。スイはこくりとうなずいた。


「でも、シヴァ神が生きている今はまだ正式の神ではないと思う。異界の扉を通るなら今しかないはず。お願い、扉を開けて。」


術者は扉を開けた。

ありがとうと、スイはお礼を言うと、ハガネと術者の手を引いて扉に飛び込んだ。バチっと光が飛び、術者は後ろへと吹き飛ばされたが、スイとハガネは扉の向こうへと向かった。


「おい!ハガネ!スイ!」


術者が大きな声で怒鳴り付ける。するとスイが戻ってきた。扉はゆっくりと閉じていく。この扉は迎えるための扉であって、向こうへといくための扉ではない。本来、異界の者が扉を通りこちらの世界に入ると扉は閉じる。異界の扉はゆっくりと閉じていった。戻ってきたスイは少し悲しそうにしながら、ぶつぶつと呟いている。


「やっぱり、ワタリドリによって異界を越えることが出来るのは、1人だけみたい。勇者召喚は成功していて、あの時、私と手を繋いでいたせいでヤマトかニゲラのどちらかを巻き込んでこちらに来てしまったということか。」


「それだけを確かめるためにハガネを異界に送ったのか?」


「本当は術者にも行って欲しかった。でも、出来なかったみたい。」


どうして…。そう目で尋ねた。スイはその問いに答えるように話し出す。


「シヴァ神が消えたら、私は正式にこの世界の神になるの。そしたら、ハガネと術者よりも私は生き続けなくちゃ行けないの。当代の魔導師はすでに勇者召喚を行ったから、勇者を喚ぶことが出来ないから。」


「俺たちが死ぬところを見たくないってことか?なら、お前が異界に行くだけで良かったじゃないか。」


異界に放り込まれる恐怖を分かっているのに何故?術者はスイの肩を掴む。スイの小さな体はとても弱々しく、バランスを崩す。


「私が異界に言ったら、どんな神が来るかわからないから、世界が滅びるかもしれないでしょ?私は2人が死ぬところを見たくないけど、2人が私のせいで理不尽に死ぬことになるのはもっと嫌。なら、私が神としてこのままいた方がいい。」


なんと自分勝手な。術者は怒りのまま怒鳴り付けようとして、思い止まった。スイは小さな子供のように、実際見た目は子供なのだが、泣いていた。 スイにこの世界で寄り添ってくれたのは、ハガネと術者だけだと自負している。術者はスイを抱きしめた。まるで我が子を宥めるように、頭を優しく撫でながら。


「私は術者に辛い思いをさせたりしないよ。シヴァ神みたいに破壊をしたりしない。だから、安心して生きてね。そして、いつか…。」


スイは言葉を詰まらせた。泣きすぎて上手くしゃべれない。死を切望していた程苦しんでいたはずなのに、それでもこの選択をした彼女はどんなに苦しいだろう。どんなに悔しいだろう。最期の時までスイの味方で居続けることを術者は誓った。



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