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神楽陽一は宿題をよく忘れる少しめんどくさがりやな子供だった。
大和武人は警察官や消防士に憧れる正義感に溢れる子供だった。
須井瑞葉は動物をモチーフにした、かわいいキャラクターが好きな大人しい子供だった。
9年前の異世界召喚されるまで、3人は裕福な家庭に生まれたどこにでもいる普通の子供たちだった。
もしあの時、異世界召喚されなかったなら3人は何不自由なく、平凡な、いや、もしかしたらそれ以上の生活を送れていたことだろう。今、こうして痛みも苦しみも恐怖も味わうことなく、暮らしていけたはずだった。
だが、彼らは異世界召喚された。
神楽は自身の意思では選べない過酷な運命を与えられ、ヤマトは自身の存在意義を否定され、スイは人としての生を奪われた。
まだ10にも満たない子供たちにとってはあまりにも残酷で酷いことであっただろう。それなのに、その仕打ちに対する責任を誰もとってはくれなかった。
「悪いとは思っている。だが、仕方のないことだった。」
神楽ことニゲラが地下へと降ってしばらくたってから、魔導師がスイにそう言った。
「私は恨まれても仕方のないことをしたと思っているし、許されるとも思っていない。怨み言も甘んじて受け入れよう。」
ハガネは強く魔導師の頬を殴り付けた。魔導師は横に大きく吹き飛んだ。
「もういい。もういいから。殴られたら痛いんだよ。殴らないであげて。」
スイはハガネの背中に顔を埋めた。ハガネは黙って下を向いた。ハガネの拳は赤く腫れている。
「ねぇ、どうしてこの世界の人たちじゃ神様を殺すことは出来ないの?」
スイの問いに魔導師からの解答はなかった。魔導師はハガネに殴られたからか、それとも横に吹き飛んだ衝撃でか分からないが意識がない。
「この世界そのものが神の所有物だからだ。」
かわりに術者が答える。
「神がこの世界に君臨した時、土地はもちろん、水、火、金、この世界に生息する生き物までもが神の物になる。それはこの世界の住人も例外ではない。神の所有物である我々は主人である神を傷つけることなど出来はしない。だが、神が君臨した後に召喚された異世界人は神の所有物には該当しない。だから、神を倒すことが可能なのだ。」
「でも、王族の名前を縛る魔法で神を地下に閉じ込めてたじゃん。それって主人に逆らってることになるでしょ?」
「魔力はそもそも神とは関係ない。シヴァ神が君臨する前から魔力はあったのだから。」
「神様が君臨した瞬間から、この世界の全てが神様の物になるんでしょ?ならこの世界に元々あった魔力もそうじゃないの?」
スイの疑問に術者は言葉を詰まらせた。確かにその通りだ。この世界の全てが君臨した神の物になるのだから、シヴァ神は人を殺し、自然を壊し、世界を崩壊させていくことをこの世界のものには止めることが出来ない。神が何を行おうと誰を殺そうと、何をしようとこの世界では許される、そういうものだと認識していた。だから異世界召喚を行い、異世界の者に神を罰してもらう。この世界のものでは神に危害を加えることなど出来ないのだから。
その考え通りなら、王族がシヴァ神を魔力で縛ることなど出来るはずがないし、そもそも魔力とはこの世界のものではないということになる。なら魔力とは一体何処から来ているのだろうか。何から生まれているのだろうか。
「ねぇ術者。術者はこの世界の記録していて、新しい神を迎えいれることが出来るんでしょ?私、思ったことがあるの。」
スイは少し不安そうにしながら、術者をまっすぐと見上げた。
「この世界の神も支配されているの?」