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ドラゴンの上から降りて、俺たちは城の中にと入っていった。数ヵ月前までは騎士や兵士、貴族が忙しなく動き回っていたのに今では誰もいない。王が死んだからといってここまで静かなのは薄気味悪い。


「みんな殺されたの?」


スイは震えながら尋ねた。

殺されたって誰に?そう言おうとして俺はやめた。そんな問いを投げかけてもここにいる連中に答えられるわけがない。俺と同じく今、城に来たばかりなのだから。

神官は無言のまま俺たちの前を歩く。王族しか入ることが許されない1階の図書室に入るとやっと人の姿が見えた。

黒いローブを来た男。俺はどくんと心臓が強く動いたのを感じた。魔導師様だ。


「何故、ここに?」


魔導師様は俺たちに気づくと驚いたように尋ねた。


「お前こそ何故ここに?」


神官が険しい顔で尋ねる。


「王が崩御されたのだ。王だけではない。王族全員が崩御された。革命軍とヤマトによってな。」


魔導師様の言葉で俺は驚きを隠せなかった。


「革命軍とヤマト?どういうことだ!?」


「その言葉通りだ。術者にハガネにワタリドリ。それに神官か。面白い面子で行動しているな。そしてお前は、9年前に召喚した子供か。何故、お前らが共に居るのか気になるが、もう今となってはどうでもいい。」


魔導師様は 渇いた笑みを浮かべた。


「俺の質問に答えてくれ。どういうことだ?何があったんだ。」


俺は魔導師様に対する恐怖を忘れて尋ねる。


「だから言葉通りだ。ヤマトは革命軍と繋がっていた。秘密裏に革命軍を城に入れて王族殺しの手引きを行った。自分が勇者になるために。」


「そんなはずはない。ヤマトが革命軍と繋がっていたのなら俺は知っていたはずだ。そもそも俺が軍に入隊させられる必要はない。」


魔導師様は俺を悲しそうな憐れんだ目で見た。


「お前が生きていてくれて、心の底から嬉しく思うが、カルバルに拾われていたことを気の毒に思う。あの男は王族への復讐に囚われた哀れな男だったからな。」


意味がわからない。俺はもっと深く聞こうと魔導師様の目をじっと見たが、何を聞けばいいのか分からず、言葉が出てこない。


「カルバルの祖先は元王族だ。シヴァ神が君臨するまでの話だが。あの男は今の王族たちによって、自身の祖先達が王族の座を追放されたことを根に持っている。もし追放されていなければ自分が王になっていたと考えるほど自分勝手な男だ。」


初耳だ。魔導師様は続けた。


「本当の名を呼べないこの国はおかしいとか、そんな耳障りの良い言葉でも並べて自身の兵を集めて、王族を殺し、玉座に君臨することを夢見ていたのだろう。王族たちの名を縛る力によって民たちが守られていることを共有せずに…。王族を殺したところで自身が王につけぬことなど少し考えれば分かったことだろうな。本当に自己愛に満ちた自分勝手で愚かな男だ。」


「で、そんな愚かな男はどうやって王を殺したんだ?いくらヤマトの手引きがあったからといって簡単に王が倒されるはずないだろう。」


術者がつまらなさそうに尋ねる。確かにこの世界の人間たちは問答無用に王によって名を縛られる。名を縛られた罪人の未来は永遠の奴隷であり、それは自身の血縁者はもちろん、子孫にまで縛られ続ける。カルバルの真の名が王に知られていないから出来たということも考えられるが、そもそもこの城に入るためには真の名を王の魔力が込められた魔石と呼ばれるものに提示しなければならない。城の入口前にある石のことだ。その石に真の名を提示することで、石は青く光り、真の名が王に伝わる。そして、王は名を縛ることが出来る。そのため、この城のセキュリティそのものが、王の名を縛る力で成り立っている。護衛の騎士や兵士などはほぼ、飾りみたいなものだ。王の力以上に自身を守る術などないのだから。


「王が殺された場所は城ではないということか?」


「王が城から外に出ることなどあり得ない。それでも王を倒せた理由は異世界人であるお前なら分かるんじゃないのか?」


わからん。俺はチラッとスイを見た。スイは感情の読み取れない無表情で何かを考え込んでいる。


「なるほど。名を2つ持つことか。」


術者が納得したように言う。俺ははっとした。俺の元の名前は神楽陽一だが、こちらの世界に来てからはニゲラという名前が与えられた。どちらも俺の本当の名前で偽りではない。だが、それが出来たのは俺が異世界人であってできたことであって、元々こちらの住人である者には出来ないのではないだろうか。仮に2つ名を持つとしても元々の名がある限り、2つ目の名前は偽名として認識されるのではないだろうか。


「異世界人であるヤマトが2つ目の名前を与えた。それで城に入り込めたということか。」


神官も納得したように言う。

え?それってありなの?

俺は納得出来ず、スイとハガネをちらりと見た。2人も意味がわからなさそうにぼけーっとしている。よかった。とりあえず、仲間がいたから俺の頭が残念なわけではなかったと一安心した。


「正直ヤマトには失望した。裏切られた気持ちでいっぱいだ。だが、今はヤマトにかけるしかない。シヴァ神を倒せるのは異世界人だけだからな。」


ヤマトがシヴァ神を倒さないと、再びこの世界の住人たちは殺される。魔導師様は頭を抱えながら、弱々しい声で言う。


「本当の勇者はこのニゲラだ。」


神官が余計なことを言い出す。もはや妄言。だが、そんな妄言を魔導師様は聞き流さず、俺を見る。


「違う。彼も私によって巻き込まれただけの少年だ。この世界の救済主はワタリドリなのだから。」


俺は魔導師様の言葉にウンウンと頷いていたが、神官がふんとバカにしたように笑った。それから、俺に告げる。


「ニゲラ、死にたくないのならお前もシヴァ神を倒しに行け。」


「いやいや!倒しに行っても殺される可能性が大だろ!死にたくないなら、ヤマトが帰ってくることを祈るべきだろうが!」


俺の反論は響かず、神官はまた俺の背中を押す。


「何度も言うが、勇者はお前だ。ヤマトじゃない。このままお前がなにもしなければ、シヴァ神によって世界が滅びて俺たちだけでなくお前も死ぬ。さぁ、早く行け。」


「確かに可能性があるなら、異世界人であるお前も行くべきだ。頼む。ヤマトを手伝いに行ってくれ。」


何故か魔導師様までお願いしてくる始末。どう見ても俺は勇者ってガラではないのだが。


「お願い。ニゲラ。いや、、神楽。」


スイも泣きそうな顔で懇願してきた。その様子を見たハガネ様と術者様も頭を下げてくる。この、過保護なモンスターペアレンズもどき共が。

俺は渋々、図書室の隠し通路を使って地下へと向かった。



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