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スイのその問いかけに誰も答えなかった。何故なら、どんな答えを与えてあげても彼女は満足しないことを知っていたから。
何も気にしなくていい。そんな事を言ったとしてもきっと彼女は受け入れないし、ならこのまま世界と繋がったままでいろと言っても彼女は受け入れられず、泣き出してしまうかもしれない。
「他人から言われた通りにお前は従うのか?」
神官が尋ねた。
「従わないのなら他人に聞くな。自分で考えろ。」
「わからないから、聞いてるの!!」
「お前の今の言葉を一般的に逆ギレという。」
スイは何も言えず、ただ神官を睨み付けた。
「その言い方はないんじゃないか?そもそもお前が何も言わなかったら、スイはこんな風に迷うこともなかったんだから。」
ハガネ様がスイをかばうように言う。
「じゃぁ、何も知らなかった方が良かったというのか?お前達は何か勘違いしてるようだが、こいつは見た目は子供だが、その姿で生まれてから、もう十何年も生きているんだぞ。自分の脳ミソで考えて決めることぐらい出来る。年端も行かないガキとは違うんだから必要以上に甘やかす理由はないはずだ。」
「俺たちは別にただ甘やかしているわけじゃない。スイの意見を尊重しているだけだ。」
術者様も神官に反論する。
「なら、これからどうするかもそいつに考えさせろ。ただし世界との繋がりを切り捨てて、ここから逃げるというのなら、このニゲラが邪魔をするがな。」
いきなり神官に名出しをされて、俺はえっ?と動揺する。確かに止めには入るけど、勝手に巻き込まれたような気分になったのは何故だろう。
「あの…提案なんだが、ヤマトが今の神を殺すまでスイがこの世界に留まるのはダメなのか?要はシヴァ神がいるから、スイのエネルギーで崩壊していく世界を維持してるんだろ?じゃぁ、シヴァ神がいなくなったら、スイのエネルギーを使う必要がなくなるんだから、それ以降ならスイがどうしようと自由なんじゃないのか?」
俺は渋々自分の意見を言う。
「世界は神で成り立っている。神が不在となるとそもそも世界は存在しない。」
神官が俺の意見を批判する。
じゃぁ知らん。
俺はそれ以上何も言わなかった。
それからしばらく沈黙が流れたが、何かを決意したようにスイが話し出す。
「なら、シヴァ神のところへ連れていって。きっと今はヤマトがシヴァ神と戦ってるところでしょ?それからどうするか決めるから。」
「すでに、そのヤマトがシヴァ神に殺されている可能性もあるが、まぁいいだろう。全員、ドラゴンの上に乗れ。1月で連れてってやる。」
不吉なことを神官が言ったような気がするが、もう気にしない。俺は、廃れた村に置いてきた馬が心配だから丁重にお断りしたが、聞き入れてもらえなかった。
さらば。短い間だったが、俺の愛馬だったことを忘れたりしないからな。あまり期待してないけど、もし生きてたら迎えに行くから、待っていろよ。
俺は愛馬に心の中で別れを告げて、ドラゴンに乗せられた。
ドラゴンは飲まず食わずで主人である神官の指示通りに進みだした。ドラゴンの姿は一般の人には見えないのか誰もこちらを見ない。俺の耳にはチリンと鈴のような音が響き続ける。進むにつれ、だんだんと俺たちの目からも人の姿が見えなくなってきていて、なんだか妙だった。
1月後、ドラゴンが止まったのは王や魔導師様、ヤマト達がいる半年前に出発したはずの城だった。
「着いたぞ。ここの地下にシヴァ神がいる。」
王族は神様を足蹴にのうのうと生きていたのだな。もはや神を崇拝する意思さえ感じられない。まるで神よりも自分達の方が上だと言わんばかりに、わざわざ神を封じた地下の上に城を構えるとは中々の強者だと思う。
まぁ、知らなかったとはいえ、城に登城したから、俺も神を足蹴にしたのだが…。
「妙だな。城が静かすぎる。」
術者が不審な目で周囲を見渡す。確かに門の前には騎士も兵士もいない。そういえば、ドラゴンの上に乗っているせいかと考えていたが、きちんと思い返してみると、城下町はどの店も家もしっかりと閉じきって人1人歩いていない閑静な様子だった。
「王が崩御されたのか。だから城に近くなればなるほど人々は喪中で家を閉じきっていたのか。」
神官がそう言った。
「シヴァ神が来るぞ。」
俺たちに緊張が走った。