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◇◇◇


「本当に良いのか?」


術者はスイに聞こえないようにそっと尋ねた。


「構わない。そもそもシヴァ神を迎えたのは俺とお前の祖先によるものだろ?それを無関係なあいつを巻き込むのはおかしな話だ。ここは俺たちの世界の問題なのだから。」


その問いの答えに術者はそうだなと答えた。150年前、前神であるテミス神を殺したのは当時異世界召喚されたハガネの祖先であって、現神を迎え入れたのは当時の術者の祖先である。それなのに運命を受け入れられず、ワタリドリであるスイをこの世界に留まらせ、世界維持のためにエネルギーを奪い続けることは間違いであると2人は考えていた。


「例え私が何度も転生を繰り返していて、永遠に存在し続けるワタリドリで、それでもって人ならざる者だとしても、はい、そうですかと受け入れられることはできないよ。だって私には今の私以外の記憶はないんだから、ワタリドリだって自覚はおろか人ではないっていう実感さえないんだから。」


初めて術者にワタリドリである事実を言われた時、スイはそう言って拒絶した。


「死ぬほど痛い思いや苦しい思いを何度もやっているのにそれでも生きなきゃいけないのは、どうしてなの?どうして死なせてくれないの?他の人はちゃんと大きくなって死んでいくのにどうして私は出来ないの?私だって好きでこんなことになった訳じゃないのに。好きで化け物になった訳じゃないのに。」


スイは2人に会うまで化け物と言われ、迫害されていた。何年たっても子供の姿のままで、足を斬られようと火で焼かれようと心臓を貫かれても、何事もなかったかのように体は再生されて元通りになる。1年も同じ地に留まることは出来なかった。それどころか致命傷となる怪我でも一瞬で治るため、すぐに怪しまれ、1月も滞在することも叶わなかった。放浪し続け、彼女は疲れてしまった。死を切望するほどに。


「死ねないのは魔導師によって、世界と一体化させられたせいだろう。世界とスイが繋げられている魔法そのものを斬ってしまえば、スイは解放される。」


術者の言葉でスイは自身の両足につけられた鎖を見つめた。スイにしか見ることが出来ない魔法の鎖。鎖は地面を突き刺してのびていて先が見えない。歩く度にじゃらじゃらと音がするのもスイにしか聞こえない。これは呪いだ。何度、自分の足を斬り離したことだろう。その度に死ぬほどの苦痛を味わった。だが、その苦痛を耐えている間に足は何事もなかったかのように元に戻り、鎖は地面と繋がったままだった。


「やっと解放されるんだね。」


砂しかないサルジアに着いて、スイは目に涙を溜めた 。魔導師に呪いをかけられた場所。ここに魔法陣があるはずだから、ここでならハガネが呪いを斬ることが出来る。呪いが斬られたら、術者が異界への扉を開けてくれる。本来なら神を迎えるために開けるものであるため、こちらから異界へ行くことは出来ないが、ワタリドリであるスイなら通り抜け出来るだろう。ただし、どこに繋がっているのかは不明だが。


「2人ともありがとう。もう会うことは出来ないと思うけど、絶対にこの恩は忘れない。」


スイは知らない。自分がこの世界から消えることでハガネも術者も死ぬことになるかもしれないことを。そもそもこの世界そのものが消えてしまうかもしれないことも。


「やっと解放されるんだ。そんな寂しそうな顔しないで、もっと嬉しそうにしろよ。」


スイはこくりと頷き笑った。2人は事実を隠した。


「俺だって諦めたわけじゃないさ。もしかしたら、崩壊する前にヤマトがシヴァ神を倒すんじゃないかって思ってる。そしたらスイと入れ違いでお前の開けた異界の扉を通って、新しい神が君臨するんだからさ。」


スイに聞こえないように小さな声で言う。術者は、どうだかとあまり乗っかって来なかった。わざわざ遠回りをしたのは、スイと共に召喚された異世界人のヤマトがシヴァ神を倒すための時間稼ぎのため。スイにはこの事を伝えていない。スイは元々サルジアまでの道のりをちゃんと把握していなかったから何も疑問に思わず、今日まで進んできた。

もしスイがこの事実を知っていたのならどんな反応をしただろう。涙を流して感謝しただろうか。もしくは顔を真っ赤にして怒っただろうか。もう4年も一緒にいるが予想もつかない。ただ、今は何も知らずに喜ぶスイを見守っていた。


◆◆◆


砂しかないこのサルジアの中心部で俺はただひたすらにスイ達一行を待っていた。何故か神官とドラゴンも一緒だが、もうしらん。どうにでもなれ。ヤケだ。

だから、やっと人影が見えたというのに何の感情もわかなかった。


「来たか。」


そう声を発したのはもちろん俺ではなく、神官だ。


「誰だ?お前ら。」


そう尋ねたのは術者様。


「俺は以前の神に使えていた神官だ。そして、こいつは勇者ニゲラ。」


勇者じゃねぇっーの。と心の中で突っ込んだが、もう話が進まなくなるから、とりあえず黙っておく。


「勇者?神殺しのことか?それは、魔導師のところにいるヤマトのことだろ?」


ハガネ様がそう言う。


「違う。そいつではない。このニゲラこそが本物の勇者だ。」


「どういうことだ?」


それは俺も聞きたい。スイがはっとしたかのように俺をじっと見た。


「あなた、もしかして、私と一緒に召喚された人?」


仕方なく俺はこくりと頷いた。嘘吐いても仕方ないしな。


「生きていたのね…。」


そう言って笑ったスイの目からは感情が読めない。怒りのものなのか憐れみのものなのか分からない。


「俺を恨んでいるのか?」


少し声が震えた。聞きたくないが、あの目がどんな感情なのか知りたくなった。


「恨む?どうして?」


「俺があの時、お前らを見捨てて逃げたから。」


その言葉にハガネ様が俺を睨み付ける。術者様も怪訝そうな目で俺を見る。


「そんな昔のこと忘れた。今はこの世界から解放されることの方が大切だから。」


俺は何も言えなかった。


「お前ら分かっているのか?このワタリドリを今、世界から切り離したらお前らはおろか、世界は消えるんだぞ?」


神官が軽蔑したようにスイたちを見た。ハガネ様と術者様はもとから知っていたのか特に動揺した様子はない。ただスイだけが驚いていた。


「消えるって、2人とも死んじゃうってこと?それも私のせいで?」


スイの言葉に2人は狼狽えていた。何かを言おうとしていたが、何も言えずにいる。そんな風に見えた。


「そんなの耐えられるはずないじゃん。なら私は、どうすればいいの?」



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