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拉致誘拐のザリガニ女登場!

それからというものは、斎藤結子さんとはなにかと縁ができたように思う。

最初の席替えでは隣同士、つまり比較的近距離で、常に彼女がいたりして。

仲の良い女子は萩原さんに吉倉さん。


どちらもかわいい系の女子で、自分を引き立てるための付き合いなんてしていないのがわかる。

そして二人の友だちが流行に乗った話題を振ると、いつも少し困ったような表情を浮かばていたり。

クールな外見に似合わず、意外にもお笑いが好きだったり。


そんな情報が聞くともなしに入って来たりする。

部活は無所属なので、登下校の時間帯が僕と重なったりもする。

学校の玄関では、よく顔を合わせることがあった。


「おはよう、柏木くん」


挨拶は決まって彼女から。


「おはよう、斎藤さん」


僕も気軽に挨拶を返す。

決して格好良すぎたり、冷たい人間なんかじゃない。

それが分かっているから、自然と挨拶にも笑みが混じる。


今度は僕から挨拶をしてみようかな?

そんなちょっとした冒険心も湧いてきたり。

だけどいくら痩せたからって、ちんちくりんで寸足らずの僕のことなんか、全然気にも止めてないんだろうな……。


そんな気後れも交えながら、僕は幸福な日々を過ごしていた。

しかしそんなささやかな日常の幸福を破壊するのが、悪の組織というものだ。

やはりその日を狙っていたか、とでもいいたくなる。

土曜日の遊園地に、奴らは現れた。


休日朝のワイドショーに、速報のテロップが入る。

県内の大型遊園地を、悪の組織「ダークネス」を名乗る集団が占拠。来園客を拉致、被害者多数。

現場からの映像が入った。

幸いにして、まだ事件の最中である。


「これは急がなくては!」


ヒーローの声に、僕も応える。

二階の自室に駆け上がった。

カーテンを閉めて変身する。


お隣さんの部屋にもカーテンが閉められているのを確認。

その上で僕は窓から飛び出した。

低空飛行では音速は出せない。


ソニックブームで民家に被害が出るからだ。

普段ヘリコプターが飛んでいるような高さを突き抜け、旅客機が飛んでいる高さも越える。

文字通り、雲を突き抜けた高さだ。


「しまった! これじゃ遊園地の場所がわからないよ!」


「まずは超音速で飛ぶことだ、カズヤ! 進路の微調整は雲の下に降りてからにすればいい!」


巧緻より拙速。

まずは行動することが急務だとヒーローは主張した。

ということで、僕は音の倍の速度で飛ぶ。


カップラーメンが茹で上がる暇もなく、ヒーローは高度を下げることを命じてきた。

雲をくぐって街を見下ろせる高さへ。

遊園地との誤差はわずかなものだった。


急いで遊園地へと向かう。

……いるいる。

面に広がる来園客と、それに襲いかかる全身黒タイツの戦闘員。


そして戦闘員を指揮しているのが……二足歩行はブル将軍と同じ。

ただし両手は巨大なツメのハサミ。

上半身は怒っているかのように赤い。


どう見てもザリガニだ。

それも特定外来生物である、アメリカザリガニだ。

子供の頃、飼育していたので僕にはわかる。


とりあえず飛行能力をカット、自由落下に身をまかせる。

とはいえ、折りたたんだヒザはダークネスのアメリカザリガニをねらっていた。

風を切る音が耳一杯、他には何もきこえなくなったけど……。


ゲシッ! ヒザに硬い感触。

そして「OUCH!」という悲鳴。

地面に着地すると、アメリカザリガニは真っ赤になって右のツメを向けてきた。


「ヘーイ! いきなり空から降ってきてニーをぶち込むなんて、ジャパニーズはやっぱりヒキョー者デース!」


おや? 女性の声だ。


「ミーがダークネス総帥フーマン博士の片腕、ロブスタークイーンと知っての狼藉ですか!? ユーシー!?」


片言の日本語だけど、英語もあまり上手ではなさそうだ。

「ミーが」とか言っちゃってる。

しかもロブスターとか言ってるし、お前どう見てもザリガニだろ?


「what’s!? 名乗りもしなけりゃ謝罪も無しネー! どこまで無礼千万なんでショー!

ジャパンはレーに始まりレーに終わる国と聞いてましたのに、さてはユー! 偽物ジャパニーズですネー!?」


いろいろと差し障りがありそうだから、そろそろ名乗るとするか……。


「文明の出遅れたマンキィはこれだから困りまース! ユーに衣服などもったいないネー! さっさと全裸になって森へ帰りやがれでース!」


だから名乗らせろよ。


「ヘーイ、この根性までシラミのたかったマンキィめ! 文明の最先端である我ら合衆国国民が、その足りないオツムに教育してやるでー……グヒ」


話が進まないので、とりあえず蹴り。

ザリガニ女はアゴを押さえてアスファルトの上でもがいていた。


「私の名は融合超人ジャスティス! お前たち悪の組織ダークネスの野望を打ち破る、正義の刃だ!」


「なんて酷いことするネ、ジャスティス! レディの顔面を足裏で蹴り飛ばすだなんて!」


……やっぱり雌かよ、このザリガニ。


「せっかく苦労して生身の人間を誘拐して、戦闘員や怪人に育てようとしてるのに、邪魔するですか!?」


いや、それ、悪いことだからな?


「融合超人ジャスティス! ユーは人の仕事を邪魔する悪い奴でース!」


なるほど、自分の正義を主張するときは他人の話に耳を貸さない。

合衆国国民を名乗るだけはあるな。


「こうなれば法廷闘争でース! もちろんこの法廷は、力こそが正義でース!」


戦闘員が僕を取り囲む。

なるほど、力は正義という考え方もアメリカザリガニらしい。

戦闘員たちの今回の得物は、へんてこな剣ではなくザリガニのツメがついた棒ッキレだ。


取り囲まれて飛びかかられても、僕はフットワークだけで戦闘員をかわす。

そして的確な左を一発、さらに一発。

次から次へと戦闘員を行動不能……つまり泡に変えた。


「なにをしてるでース! とっととあのブレー者をセーバイしなさーい!」


拉致誘拐につとめていた戦闘員たちも、バトルに参加させる。

おかげでさらわれそうになった来園客たちは、魔の手を逃れて逃げ出している。


「シーートッ! なんたるチーアー! これでは作戦が台無しネーー! おのれジャスティス、ただではおきませーン!」


いや、こうなるように命令したの、お前だろ?

僕が悪いの?

お前がアホなの?


するとアメリカザリガニは尻尾を池の施設にポチャリと浸けた。

尻尾の下には、無数の黒い粒……つまり卵が抱え込まれていた。

池の水が沸騰したように泡立つ。


すると小学生サイズのアメリカザリガニ怪人がゾロゾロと池から這い上がってきたではないか!


「ムノーな戦闘員などに頼らず、最初っからこうしておくべきだったネー! ヘイ、マイチルドレン! 奴を畳んで人間をひっ攫うネ!」


「「「ザリーー!」」」


部下を無能呼ばわりかよ、大した上司だなお前。

ってゆーか最初からこうしておくべきだったってんなら最初からそうしておけよ。

っつーかロブスタークイーン名乗ってたけど、お前の子供たち「ザリーー!」とか言ってんぞ?


ツッコミどころ満載すぎる、というかこれが異文化交流の難しさというのか。

冗談を言っている場合じゃない。

小学生サイズとはいえ敵は戦闘員の倍三倍の数がいる。

押し包まれたら超人的身体能力でも危ないだろう。


「カズヤ、ジャスティス・マイクロウェーブを使え!」


ヒーローの必殺技のひとつだろう。

脳に直接レクチャーしてくれる。

まずは合掌。


合わせた手と手の間に波を発生させる。

その波でザリガニたちの水分子を振動させ……つまり電子レンジに入れたような状態にするのだ。

子供ザリガニたちは、頭の外骨格をはじけさせてバタバタと斃れた。


周囲になんだか美味しそうな匂いが漂う。

もちろん断末魔は、子供の声であった。

そして脳を破壊された子供ザリガニたちは、手足を無残に痙攣させるという残酷描写をたっぷりと見せつけて、それから泡になって消える。


人の良心に訴えかけるような最期であったが、どのような死に様を見せようとも、悪は悪。

この子供ザリガニたちが誘拐に成功していたら、拉致被害者たちの中からこうした死に様を晒す者が出てくるのだ。

どれほどその容姿が良心に訴えかけるものであっても、手を緩めるわけにはいかない。


なぜなら相手はアメリカザリガニ。

一匹逃せばそこから異常な繁殖を見せるからである。

読者のみんなも、アメリカザリガニを飼育するときは最期までしっかり飼育しようね。


ということで、子供ザリガニは全滅。

ザリガニ女は気のふれたような声をあげた。

まさしく「OH!!! NOOOO!!!!」というやつだ。


そして聞き取れない英語で、僕になにかまくしたてる。

おそらく聞くに堪えないような罵詈雑言、呪いの言葉を浴びせてきたのだろう。

しかし僕はネイティブスピークなど聞き取れない。


「カズヤ、まずはパーム・ストライクで弱らせよう」


ヒーローも聞き取れているだろうけど、聞き取れない振りである。

そしてパーム・ストライクとは、いわゆる掌打のことだ。

敵は表面の硬いアメリカザリガニ。


こぶしで外骨格を破ろうとせずに、掌で脳にダメージを与えよう、という指示だ。

しかし敵はエビの仲間。

バックステップは早い。


「負けるなカズヤ、どんどん間合いを詰めるんだ!」


グイグイ前に出ると、真っ直ぐ後退していたザリガニ女は遊具施設の立入禁止柵に詰まった。


「今だ、カズヤ!」


掌で、まずは小さな左フック。

続く右アッパーは強めに。

効いている、腰が落ちて柵に寄りかかった。


そこからの左右交互の連打は、すべてフルスイング。

これでもかこれでもかと打ち込んだ。

ザリガニ女の意識が飛んだ。


頭部をガードしていた巨大なハサミが、ダラリと垂れ下がったのだ。

僕は間合いを取る。

すでに右手は、エネルギー充填120%だ。


柵にふたつのツメをからませて、グッタリしているザリガニ女に正義の雷ジャスティス・ショット!

意識が飛んだまま、なにも分からないうちに、ザリガニ女は泡となって消えた。

そして狂ったようなパトカーのサイレン音。


眩しく輝く赤色灯。

日本警察の登場だ。

さすがに今回は、融合超人ジャスティスの姿を撮影されまくっただろうなぁ……。


とりあえず人々に背中を向けて、僕は空へ飛び立つ。

カズヤくんがいろいろとホザいておりますが、作者寿は日米の友好関係を応援しています。

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