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レディ・モスの罠

斎藤結子は心踊っていた。

日本人……その中でもとくに女性というものは、やはり諍いやどちらが上位か? というマウント争いよりも「和睦」を望むものである。

そして斎藤結子は自分が柏木和也と交際宣言をして以降、彼の幼馴染である近藤美奈子との関係がギクシャクしていることを、心のどこかで気にしていた。


もちろん意中の男の子と相思相愛の仲をむすぶことができた、という喜びは最優先である。

しかし事あるごとに浴びせられる冷水のような視線と態度は、やはり結子にとってストレスになったのである。

呼び出されたのは、街角の喫茶店。


客もまばらなこの店で、近藤美奈子の姿はやはり目を引いた。

可愛らしい。

そして学校で見せるような険しさもなく、結子に小さく手を振ってくれた。


結子も手を振り返す。

そして近藤美奈子の向かいに座る。


「ごめん、待たせちゃった?」


結子の方から口を開く。


「ううん、それより今日は柏木くんは?」


「一人だよ、そうして欲しいって言うから」


「……そうか……一人か……」


地獄の底から響くような声だった。

結子の背中に冷たいものが走る。

眼の前の近藤美奈子は、見る見る蛾の化け物に姿を変えた。


「変身!」


そう叫ぶのとレディ・モスの鱗粉攻撃を浴びるのが、ほぼ同時であった。

毒が回る。

意識が遠のく。


しかしコスモスーツは斎藤結子の身体を包み、ミス・ジャスティスの姿となって倒れ込んだ。

レディ・モスは歓喜の声をあげた。


「おやおや、これはお買い得ってやつかしら?

まさかアンタがミス・ジャスティスだなんてね。そうなると融合超人ジャスティスの正体は、さしずめ柏木和也かしら?」


そして高笑いしながら、ミス・ジャスティスの頭を踏みつける。

そしてレディ・モスは戦闘員に命じた。


「お父さま、フーマン博士に連絡を! ジャスティスの正体が判明、罠を仕掛けるとね!」


戦闘員は独特の返事で散ってゆく。

そしてレディ・モスに命じられて、ミス・ジャスティスが失神体を運び出して行った。






そんなこととはつゆ知らず、僕は日曜の午後を食事を済ませてまったりとしていた。

すると脳内で、ヒーローが悲鳴のような声で叫んだ。


「大変だ、カズヤ! ミス・ジャスティスがダークネスに連れ去られたぞ!」


「なんだって!?」


いや、結子さんは用心していたはずだ。

というか、ミス・ジャスティスの能力がありながら、なんでそんなに簡単に連れ去られたの!?

いや、考えている場合じゃない。


「場所はどこ!?」


「街の喫茶店から……国道を西へ向かっている」


しかし分身からのテレパシーが途切れそうだと言う。


「分身はいまにも意識を失ってしまいそうだ」


僕は自室に駆け上がり、コスモスーツで変身。

目にも止まらぬ速さで窓から空を目指した。

喫茶店の場所は結子さんから聞いている。


その上空に到着して、国道の西へ進路を変える。

見下ろすと一台だけ、猛スピードで走る異常な自動車がいた。


「あれかい、ヒーロー?」


「コスモスーツの反応がある。間違いない!」


「よし、それじゃあ急降下して結子さんを……」


「待て、もしかしたら誰かに見られているかもしれない! それに目的地は敵のアジトかもしれないぞ!」


そんなちょっとした利害関係もからみ、僕は攻撃を中止。

追跡をすることになった。

自動車が入ったには、砂利の採掘場。


日曜日なので採掘機械は停まっている。

つまり、ここなら誰もいない。

僕にとっても好都合だ。


急停止した自動車のエンジン部分に、思い切りヒザから着地する。

外れたエンジンが地面に当たったのか、イヤな金属音がした。


「悪の組織ダークネスめ! ミス・ジャスティスをさらったのは解ってるんだ! 返せ!」


そう叫ぶと、後部座席から蛾の怪人が現れた。

意識を失ったミス・ジャスティスを抱えている。

そして思わず絶句するようなことを叫んだ。


「よく来たな、融合超人ジャスティス! ……いや、柏木和也!」


「なにっ!?」


どうしてそれを、と言いかけたけど寸でのところで思いとどまった。

まだ正体を明かすのは早い、そう思ったからだ。

だけど蛾の怪人はミス・ジャスティスのゴーグルをむしり取った。


結子さんの素顔が現れる。

コスモスーツに素顔というのは、誰もいない南の島での思い出なのに。

今はそんな思い出も踏みにじられて、絶望的な状況でしかなかった。


絶望的な状況……結子さんの顔色が悪い。

もともと色白ではあるけれど、ロウソクのように真っ白な顔色だ。


「彼女に何をした!?」


場合によっては容赦しないぞ!

しかし蛾の怪人は高笑い。


「お前が質問する立場かい? それよりも素顔を晒すんだな、柏木和也!」


戦闘員が結子さんの胸元に、得物を突きつける。

脅迫だった。

しかし今は結子さんを救うため、折れるしかない。

僕はゴーグルを外し、素顔を見せた。


「思った通り柏木和也だったね! どうだい、愛しい恋人が人質にとられた気分は?」


「くそっ、何故それを!?」


「その訳を知りたいかい? 知りたいよね? それはねぇ……こんな訳さ!」


もう、どうすればいいんだ……。

毒蛾の怪人は人間に姿を変えたのだけれど、それがあろうことか僕の幼馴染、近藤美奈子だったんだ。

何故だ? どうしてこんなことになっている!?

これでもかというくらいに動揺している僕に、さらなる試練が襲いかかってきた。


「でかしたぞ、レディ・モス! さすがは我が愛娘!」


声は切り立った崖の上から聞こえてきた。

そこにはお向かいのオジさん、近藤のオジさんが高笑いしていたのだ。

僕の中でヒーローが分析を開始する。


「カズヤ、最悪の事態だ……」


なんだよ、こんな時に。


「フーマン博士の反応があった。お向かいのオジさんには、私と同じようにフーマン博士が取り憑いている!」


どーするんだよ、こんな状況!

そりゃあ確かに僕は数々の戦闘員や怪人を葬ってきましたよ!!

えーえー元は人間だと知っていながら、平和な世界を取り戻すために亡き者にしてきましたさ!!


だけどね、彼らは僕にとって言っちゃ悪いけど「赤の他人」だったんだ!

どこで事故にあっても、どんな病気にかかっても、それで死んだところで胸ひとつ傷まない存在だったんだ!!

だけどどうして!? 何故!? この期に及んで知り合いが悪の手先で悪の元締めなんだよ!?


その上で正体もバレて、恋人が素顔を晒されて人質にされて、どうしろって言うんだ!?

そして僕が追い詰められれば追い詰められるほど、悪の首領は冷静になるらしい。


「レディ・モスよ、人質をここに!」


「はっ、お父さま!」


レディ・モスは気を失っている結子さんを抱えて飛翔。

崖の上に降り立った。

結子さんをX型に磔る。


意識も無く磔られた結子さんを、レディ・モスはボディブロー。

結子さんはかすかに呻いた。

よかった……まだ生きている……なんて言ってる場合じゃない!

すぐに助けなきゃ!


「おっと、動くんじゃないよジャスティス! 少しでも抵抗すれば、お前の彼女を痛めつけてやるからね!」


僕を取り囲む戦闘員たち。

手に手に持っているのは、もう刃物じゃない。

棍棒のような武器だ。


覆面の下で、ニヤニヤと笑っているのがわかる。

動画サイトの「検索してはいけない」シリーズで、海外のマフィアが裏切り者に私刑の制裁を与える動画を思い出した。

つまり戦闘員たちは、僕のことをなぶり者にするつもり。


その時間がすこしでも長引くよう、僕の苦しむ時間がすこしでも長引くよう、刃物ではなく棍棒に持ち替えたのだ。

襲いかかってくる戦闘員を、反射的にかわしてしまった。

すると崖の上から、鈍い音が聞こえてくる。

レディ・モスの拳が、ミス・ジャスティス……結子さんのボディにめり込んでいた。


「やめろ、レディ・モス! いや、ミッコ! 君はそんな娘じゃなかったはずだぞ!」


僕が叫ぶと、レディ・モス……近藤美奈子はあからさまにゲーッと吐き出すように言った。


「なにがミッコだ、今さらそんな名前で呼んで! 気色悪いからさっさと畳んでおしまい!」


レディ・モスの号令一下。

僕を取り囲んでいた戦闘員たちは一斉に襲いかかってきた。


次回、いよいよ最終回! お楽しみに!

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