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悲劇と喜劇と青春のリビドー

男は仕事にすべてをかけていた。

それは愛する家族のためであった。

しかし皮肉なことに、男が家族のためと仕事に没頭すればするほど、家庭を蔑ろにすることとなっていた。


矛盾である。

そのことに男は気がついていた。

しかしすでに、逃げも隠れもできぬ場所まで、男は突き進んでいたのだ。


もう随分ながいこと娘の顔も見ていない。

妻の話しでは高校に上がって以降、家にも帰らず繁華街で遊び呆けているということだ。

幸いにして、補導されるなどということはなかった。


そのことにかこつけて、男はまた仕事に没頭する。

いつまでもチマチマと研究室ラボにこもって、来る日も来る日も病原体を眺めたりガン細胞を観察していても、生活サイクルが変わることはない。

なにかもっと画期的な、抜本的構造を変革するような発明をしなければ、製薬業界全体がジリ貧になってしまう。


誰もがそれに気付いていながら、なんの手も打てぬというのが現状である。

しかし、男に悪魔がささやいた。

もっと効率の良い手段があると。


悪魔の名はドクター・フーマン。

惑星ダークから来た天才科学者だという。

そして男の名は近藤隆。


製薬会社の研究室に勤務する、近藤美奈子の父親であった。

近藤隆は悪魔の手を取った。

そして画期的な手法で次々と成果を上げてゆく。


時間ができるようになった。

昇進も間違いない。

しかし悪魔は、成功の見返りとして近藤隆に時間を要求してきたのだ。


ドクター・フーマンの野望に加担すること。

そしてこれに成功すれば、世界のすべてを手に入れられると保証してきた。

最初の犯罪は、研究室の中でも若くてガタイも良く、体力のある者に投薬することだった。


誰にも内緒で自分の研究室に来るよう、彼に告げる。

今や飛ぶ鳥落とす勢いの近藤隆からの呼び出しだ。

若者は出世馬にでも乗った気分だっただろう。


本当に誰にも内緒で研究室へ来た。

世間話から始まり、近藤隆は茶をすすめる。

ドクター・フーマン発明の薬品がたっぷりと入った茶である。


若者はブル将軍に変身した。

そして容体が安定すると、素の姿にも戻れた。

近藤隆は命じる。


「戦闘員を生み出すため、街の若者たちに次々と投薬せよ!」


悪の組織ダークネスの始まりであった。

戦闘員が誕生したらその戦闘員が戦闘員を増やす。

ねずみ算式にダークネスは数を増す。


しかし思わぬ敵が現れた。

融合超人ジャスティスだ。

ブル将軍一味は全滅した。


しかし戦闘員たちはまだいる。

そして有望な女性に投薬成功。

ロブスタークイーンが生まれる。


これも倒されはしたが、ドクター・フーマンは焦りはしない。

融合超人ジャスティスの正体が、自分を護送していたジャスティス星人だとわかっていたのだ。

融合超人のスーツが、ジャスティス星宇宙警察の官給品だとわかっていたのである。


しかし近藤隆は次なる怪人コウモリ男爵が斃された辺りから焦りを感じていた。

もっと強力な、世の中を恨みに恨んでいるような人材を得なければ、ジャスティスに勝てないのではないかと。

コウモリ男爵が収集してきたデータをめくってみる。


怪人としてもっとも強力な人材。

世の中を恨みに恨んでいる人間。

その筆頭に近藤美奈子という名前が上がっていたのだ。


自分の娘である。

ただし、もう顔も思い出せないほど会っていない。

家族のために、ドクター・フーマンと手を組んだはずだった。


その野望を叶えるために怪人を生み出している。

その怪人の候補として、自分の娘の名前が上がっていたのだ。

人生は喜劇だ。


近藤隆は笑った。

これを喜劇と呼ばずして、なにを喜劇と呼べば良いのか!?

もう、狂うしかない。


人として生きるのではなく、悪魔そのものになるより他は無い。

そうでなければ自分の心が保たなかった。

近藤隆を嘲笑う、悪魔の声が聞こえてくるようであった。


事実、悪魔は囁いたのだ。

愛する娘とともに、世界に君臨すればいいだけの話ではないのか? と。

それはその通りだ。


しかし自分を娘を怪人にしたい人間がどこにいようか?

ドクター・フーマンは悪魔である。

そして天才科学者であった。


「キミがワシと手を組んだ瞬間から、キミは人間ではない。悪魔そのものになっているのだぞ?」


決定打である。

反論できなかったのである。

私はすでに罪人なのだ。


いや、人ですらない。

悪魔に魂を売っているのだ。

すでに賽は投げられ、ルビコンの川に腰までつかっているのである。


もはや近藤隆には世界征服の野望に手を貸すしか無いのだ。

決意するしかない。

娘を怪人に仕立て上げるのだと。


そして融合超人ジャスティスを抹殺するよりほかに手立ては無い。

喜劇は幕を降ろした。

次の演目は悲劇である。


しかしその芝居は観客の失笑を買うしかないだろう。










ちょっとだけ性的なキスを交わしただけで、僕はもうすっかり大人かなにかに変貌した気分だった。

クラスの同級生、美人の呼び声高い斎藤結子さんと大人のキスを交わしたことで、僕の気分はすっかり盛り上がっていた。

お姫さま抱っこの体勢で地上に降り立つ。

ここでようやくヒーローも口を開いた。


「カズヤ、彼女もまた融合超人ジャスティスに近い能力を手に入れたのだけど、それはあくまで劣化版でしかない。あまり無理はさせないようにな」


「もちろんだよ、ヒーロー。結子さんは僕にとって、かけがえのない女性なんだから」


などと意気込んでみても、やはり不安は残る。

というか問題がひとつ残っていた。


「ねぇヒーロー? 結子さんもこれからは融合超人として活躍するんだよね?」


「そのための、キミにしては大胆なキスだったはずだけど?」


からかうように言うけれど、この際ヒーローの意図は無視する。


「だとしたら顔バレが心配だなぁ、僕はコスモスーツがあるけど……」


「心配いらない、二人とも。コスモスーツには予備がある。これを彼女に提供しよう」


「なんだか御都合主義だなぁ」


「大切なコスモスーツに予備が存在しない方が不自然だと思うがね」


「えっと、ヒーローさん? 私も変身してみていいでしょうか?」


「そうだな、一度試着してみるか」


キスのせいか融合のせいか、ヒーローの声は結子さんにも聞こえるようだ。


「変身!」


結子さんは決めポーズで気合を入れる。

するとスプリングコートにジーンズの少女は消えて、ジャスティスよりも数段カッコイイスーパーヒロインが現れた。

スレンダーでありながら出るところは出ていて、それでいて少女特有の脆さ儚さを具現化している。


というか、結子さんの身体のラインもろわかりッス。

そのくせマスクとゴーグルで素顔は謎な状態。

黒髪ばかりがやけに目立つ。


そんな完璧ヒロインの誕生だった。


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