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コウモリ怪人と犬顔女

そしてまたまた土曜日。

先週は遊園地でザリガニ女を倒し、先々週はダムでブル将軍を倒した僕だけど、戦士にも休息は必要だ。

ということで、井上くん、岩崎くん、佐藤くんといったオタクメンバーで、駅前繁華街へ出撃。


ちょっと遅れているけれどゴールデンウイーク中に出た新刊同人誌を漁りにやって来た。

三人の友だちには「急用が入ったら先に帰らせてもらうからね」と、前置きはしてある。

それというのも、ダークネスの怪人が僕をおびき寄せるためか、週末土曜日の出現率が高いためであった。


だとすれば、フーマン博士はこの国の週休二日制というものを理解しているということになる。

ヒーローの読みではフーマン博士もこの星の誰かに、ヒーロー同様憑依寄生している可能性が高い、ということだ。

そのことを念頭に置きつつ、それでも少年たちのパッションは止まらない。


本当ならばリビドーを燃え上がらせたいところだけど、いかんせん僕たちは未成年。

年齢制限のかかった出版物を購入することはできないのだ。

まあ、それでも佐藤くんのお兄さん経由で、僕たちは成人向け同人誌を購入することはできる。


ぜひとも、という逸品があれば、リストを作製して佐藤くんに注文すれば、どうにかすることは可能なのだ。

だから僕たちは、直後購入という冒険はおかさない。

それに平成初期に比べていかに薄い本が安価になったとはいえ、小遣いには限度があるのだ。


大人になるまでは好奇心の赴くままに、というお金の使い方はしてはいけない。

では何故、年齢制限のかかっていない同人誌を購入するのか?

答えは簡単。


葉を隠すなら森の中。

年齢制限のかかった薄い本を目立たなくするためには、一般向け同人誌が必要なのだ。

秘蔵のお宝こそ、普通に本棚に並べておくべし。


それこそが「母親の家探し」から生き残る、最上の手段なのだ。

間違えてもベッドの下やマットレスの下などに隠してはいけない。

母親のソナーは驚くほどの性能で、息子の薄い本棚を探し当てるのである。


この僕自身、何度苦杯を舐めされられたことか……。

悲劇を繰り返さないためにも、世のオタク少年たちは大胆、かつ狡猾に立ち回らなければならないのだ。

同人誌専門店にゆくと、お目当ての新刊本が平積みで置かれている。


ショップの店員さんもお目が高いというか、予約が殺到していたのか、売れ筋を把握しているようだ。

僕たちはそれぞれ、目的の同人誌をまずは購入。

そして中古品コーナへおもむき、カムフラージュ用の同人誌も物色した。


と、そこで僕のスマホが振動する。

ニュースの新着だ。

確認すると、やはりダークネスの怪人が現れたという。


しかもこの近辺に。

すぐさま同伴の友だちに急用が入ったと告げて店を出る。

変身する場所を探した。


公園に公衆トイレがあった。

明るくて清潔なコンビニトイレが登場して以来、すっかり使われなくなった公衆トイレである。

そこに飛び込むと先客はいないようだった。


素早く変身、トイレを出る。

そして一旦高高度まで飛行、それから事件現場まで降下する。

さもさも遠くから飛んできた、という偽装をするためだ。


雲より低い場所で、一旦停止。

ヒーローのサポートで聴力を高める。

悲鳴はすぐに拾うことができた。


駅前、人通りのもっとも多い場所からだ。

音速を越えない程度に大急ぎ。

駅前の歩行者天国では、すでにコウモリのような怪人と、戦闘員たちが暴れている。


どうやら前回と同じように、人さらいが目的のようだった。

僕も急降下、前回のザリガニ女に対するようにヒザ蹴りを狙う。

しかし、命中直前でヒラリとかわされた。


慌てて軟着陸に切り替える。

コウモリ怪人はキキキと笑った。


「キサマが融合超人ジャスティスか? 俺の名はコウモリ男爵! 偉大なるフーマン博士の懐刀だ!」


「先週遊園地に現れたアメリカザリガニも、右腕とかなんとか言ってたけど、下級爵位の男爵なんぞが懐刀でいいの? それってフーマン博士を貶めてない?」


ごく普通に僕は訊いた。

しかし怪人というのはあまり頭がよろしくないのか、顔を真っ赤にして怒り出した。

曰く、「余は貴族であるぞ! 無礼を申すな!」とかなんとか。


世の中ネット小説というものが流行しているおかげで、僕にも爵位というものは理解できた。

だから本当のことを訊いてみようと思ったのに、なんだよこの理不尽。

僕が悪いっていうのかい?


コウモリ怪人は低空飛行で空中を滑空し、僕に超音波を浴びせかけてきた。

超音波とわかったのは、ヒーローが「これは超音波だ!」と言ったからだ。

そして僕は気分が悪くなった。


思わず足元がフラつく。

それに気をよくしたか、空中のコウモリ怪人はさらにキキキと笑う。


「ヒーロー、ジャスティス・ショットで一気に決めようか?」


「ダメだ、カズヤ。ジャスティス・ショットはハズすとえらいことになる。それこそ航空機に当たりでもしたら大騒ぎだぞ!」


そんな打ち合わせをしている間にも、コウモリ怪人は超音波を発してきた。

思わず悲鳴をあげる。

頭が割れそうに痛い。

僕だけでなくヒーローも悲鳴をあげた。


「おのれコウモリ怪人め! カズヤのシナプスを破壊する気か!?」


え? それってすごく拙いんじゃないの?

コウモリ怪人にやられっ放しだろ、僕の頭はパンチドランカー状態になるんじゃ……。

どうする、ヒーロー?


「しかたない、カズヤ。新技をぶっつけ本番で仕掛けるぞ!」


「なにそれ、大丈夫なの!?」


「基本技術はすでにカズヤの脳へと植え込んである! あとは応用だ!」


ひどく体育会系のノリというか、勢いだけでヒーローは断言した。

断ることはできない、なにしろ僕がパンチドランカーになるかどうかの瀬戸際なんだから。


「カズヤ、ジャスティス・ミストだ!」


言われるままに両手を合わせて肩口にかまえた。

その指先から、大量の水霧が吹き出す。

その水でコウモリ怪人を狙ったけど……。


ヒラリとかわされてしまう。

諦めるなと、ヒーローに励まされた。

しかし狙っても狙っても、コウモリ怪人は水をかわす。


コウモリ怪人は僕の放つ水霧はかわしていたけど、空中に漂う水の粒まではかわしていない。

つまり全身にキラキラと水滴を光らせている。

それは僕の頭の上を飛び越しているからであり、水霧は僕を中心にドーム型のエリアを形成していたからだ。

充分の状態! とヒーローは言う。


「カズヤ、ジャスティス・スパークだ!」


これも初めての技だったが、すでに脳は理解している。

体内電気を両手に集め、水霧の降りしきる中で放電した。

ドン! と空気が振動する。


そしてコウモリ怪人は「ギャッ!」と短い悲鳴。

まっ黒焦げになったコウモリ怪人は地面に墜落。

地上で放送禁止レベルの痙攣をしている。


目、鼻から出血……口からはきだしているのは、内臓?

なかなかグロ画像と言えた。

吐き気を堪えてジャスティス・ショット。


コウモリ怪人は泡となって消えていった。

主砲を失った戦闘員たちは捕らえていた人々を解放し、散り散りに逃げてゆく。

その後を追えばフーマン博士のアジトもわかるのだろうけど、電撃を放った僕にその余力は無い。


早々に飛び去りたいところではあったけれど、とりあえず連れ去られそうになった人々を見送って、それから去ることにする。

しかし、その人々の中に見知った顔を見た。

近藤美奈子だった。


思わず視線が止まる。

彼女も僕の視線に気づいたか、僕に視線を止める。

ゴーグルをしているから僕、柏木和也とはバレないはずだけど、近藤美奈子はツカツカと近づいてきた。


「なによアンタ、アタシたち助けてさぞかしイイ気分でしょうね」


なにを言いだすのか?


「だけどね、アタシはアンタみたいな寸足らずに助けられたくなんてなかったわよ!」


僕の眼の前には学年トップクラスの可愛らしい女の子ではなく、頭のイカれたバカ女がいた。

目は釣り上がり犬のように顔が伸びた、醜い顔である。

醜女は続けた。


「やつあたりなのはわかってんだけどね、アンタはアンタみたいな寸足らずが大ッキライなの! アンタみたいのに助けられるくらいなら、あの変な連中に殺された方がよかったわよ!」


軽く平手を打った。

近藤美奈子はハッとしたような顔をする。


「死んだ方がいいなんて言っちゃいけない。……ひとつしかない命なんだ」


だがすぐにキッと僕を睨み据え、耳障りな声で騒ぐ。


「なによ偉そうに! ちょっと人を助けたからって偉そうに!」


周囲の人々の怪訝な視線も気にせず、近藤美奈子はわめき散らした。

もう恥も外聞もない。

というか感情のままにわめいているだけなので、みっともないこと甚だしい。


かつては近藤美奈子を可愛らしいと、その見てくれに心躍ったこともあったけど、気持ちはすっかり冷めて今では氷点下だ。

どうしてこんな女の子になってしまったのか?

僕なんかに告白の真似事をして、それが本気でなかったからこそ、僕に袖にされたダメージは大きかったのかもしれない。


だがしかし、本気でもない告白をした時点で、人の心を弄ぶ酷い女になっていたとも言える。

近藤美奈子、ますます酷い人間になっていた。

水霧が超音波にどのような影響を与えるか? 理数系の身ならぬ作者にはまるでわかりません。

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