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柏木和也の視点を離れて

柏木和也の視点を離れて

…………………………………………。

近藤美奈子は不機嫌であった。


幼馴染がデブデブの肉団子のような体型だったことは、すでに過去のことであったが、それでも近藤美奈子のプライドを傷つける過去には違いがなかった。

そしてその幼馴染というのが、「オタク」であった。

この事実も不快であることはなはだしい。


よりにもよって、近藤美奈子にとって不快不愉快の因子をふたつも兼ね備えている。

それが幼馴染柏木和也だったのだ。

何故ファットマン体型とオタクが、近藤美奈子にとって不快であるのか?


答えは簡単だ。

そんなヤツを幼馴染と言っても、女子の誰も羨まないからだ。

幼馴染というのなら、背が高くてスタイルも良く、清潔感があって遊びもスポーツも将来性も抜群でなくてはならない。


そんな幼馴染であれば、女の子はみんな噂をするだろう。

中には粉をかけるヤツも出てくるかもしれない。

だけどそんなときには、「私の幼馴染なんだ」と言い放って、そいつの目の前で仲良くしてやるのもいい。


だけどデブデブの寸足らず、しかもオタクなんぞでは女子からの好感度は低い。

むしろアレが幼馴染と言ったなら、「ご愁傷様です」と言われて笑い者にされるだけだ。


学年でもとびきりの可愛らしさ。

それは自分でも自覚している。

だから幼馴染柏木和也の存在は、近藤美奈子にとって人生の汚点でしかなかったのだ。


その柏木和也が急激に痩せた。

どのようなダイエットをしたのかはわからないが、とにかくクラスでも少し評判になったのだ。

痩せてみれば、案外イケメンだったのである。


寸足らずは相変わらずではあったが、そこがいいという女子まで現れたのである。

威圧感が無い。

やはり乙女というのは、誰でも素敵な初体験を夢見る。


素敵な初体験に背の高い男の子というのは、やっぱり怖いと感じるものだ。

それに人当たりが柔らかなところもポイントとして挙げられた。

そう、ちんちくりんのデブチンだったけど、柏木和也は物腰の柔らかな少年だったのだ。


それは痩せてイケメン顔になっても同じ。

というか、見てくれが良くなっても肩で風切るようなところがひとつも無い。

以前とまったく変わらない柏木和也だったのだ。


同じクラスの雌どもが動き出す。

近藤美奈子はそれを察知した。

察知しておきながら、黙って指をくわえて見ている美奈子ではない。


誰よりも先に動いたのだ。

相手はロクに女子と会話したこともないようなオタク。

それでも美奈子は男を落とす術を総動員した。


図書室まで呼び出して、モジモジするような仕草。

上目遣いや顔の前で指先を合わせる仕草をしてみたり、とにかく男の気を引く技を見せつけた。

完璧だった。


オタクひとりを落とすには、少しやりすぎと思うくらいに完璧だった。

それなのに、女子とまともに口すらきいたことが無いはずの柏木和也は、近藤美奈子を袖にした。

あんなのに振られてしまった。


もちろん本気などではない。

しかし柏木和也に振られた事実は覆せない。

学年でも一、ニを争う女の子が告白したというのに、あのチビはなびこうともしなかった。


この事実は、近藤美奈子にとって大変に不愉快な事実であった。

しかも上から目線の説教じみた言葉まで浴びせられたのである。

何様のつもりよ! 何様のつもりよ!! 何様のつもりよ!!!


思い出すだけで腹が立つ。

その憂さは放課後に繁華街で、すぐに釣られてくれるストリートの男の子たちと遊ぶことで晴らした。

散々金を使わせて、また遊んでねと嘘のアドレスを渡せば、操は守られた。


美奈子にとって操は商品だった。

処女だと言えば男などいくらでも引っかかったのだ。

そしてガッツくようなヤツは相手にしない主義である。


嘘アドレスを渡すだけで解放してくれる、自称スマートな男だけ相手にしていた。

ようやく気分が晴れてきた頃、美奈子の心をかき乱すような事件が起こった。

背ばかり高い仏頂面の女、斎藤結子が柏木和也に接近していたのだ。


そして自分を受け入れなかった柏木和也が、斎藤結子の接近を許しているのである。

なにそれ!? 信じらんない!! どういうこと!?

なにをどう考えれば、アタシよりあんな威圧的な女を選ぶのよ!?


頭おかしいんじゃない!?

もしかしたら斎藤と柏木和也が接近しているというのは、何かの間違いかもしれない。

そう思って観察をしていた。


しかしデカブツ女は恋する女子特有の空気を振り撒いて、隣の席の柏木和也に話しかけている。

元デブのチビも、まんざらでもなさそうな表情だ。

とにかく会話を交わす二人は「仲良しさん」という雰囲気であった。


面白くない! 面白くない!! 面白くない!!!

とにかく面白くないことだった。

二人の仲を引き裂いてやろうかとも思ったけれど、学年トップクラスの人気者という立場上、あからさまな妨害などはなかなかできない。


しかし躊躇していればいるほど、二人の距離はどんどん近づいてゆく。

近藤美奈子はひとりで不機嫌を抱えるしかなかった。







そして、ところ変わって試験管やフラスコの並んだ研究室。

広く明るく清潔で、日本国内においてはかなり設備の整った研究室といえる場所。

そこは今やフーマン博士の研究室となっていた。


そして今日もまた、新たな怪人が生み出されている。

巨大な耳に漆黒の翼、耳まで裂けた口には鋭い牙が並んでいる。

怪人コウモリ男爵であった。


フーマン博士はコウモリ男爵に特殊な能力を与えている。

コウモリ男爵の発する超音波は人間の欲望を感じ取り、特殊薬物フーマンXを投与すればより強力な怪人となりうる人材を探し出すことができるのだ。

地球には、日本には、そうした欲望や不満を持つ者……すなわち怪人としてスカウトするに足る人材が豊富であった。


ドク・フーマンはほくそ笑む。

ジャスティス星の一介の公務員に過ぎぬヒーローとかいう若造。

奴に報復するには恰好の惑星に逃げ延びることができた。


そして中途半端な科学力を有している惑星でもある。

この惑星を支配し、戦力を溜め込んで、あの忌まわしいジャスティス星に復讐するのも悪くない。

そしてなにより、大変に好都合な媒体に憑依することができた。


原始的ではあるが薬学に明るく、潤沢な薬剤を調達できる地元住民。

その脳を支配することに、ドク・フーマンは成功していた。

どうやらこの媒体は組織の中でも高い役職にあるようだった。


故に資金を流用し、このようなラボも手に入れることができる。

順調だ。

ヒーローとかいう若造の居所が不明であるということ以外は、すべてが順調と言えた。


そしてこのコウモリ男爵を量産すれば、ヒーローとかいう若造も見つけ出せるに違いないと考えている。

ロブスタークイーンを邪魔し、ブル将軍をも抹殺した融合超人を名乗るジャスティスとかいう奴。

奴がヒーローだということはドク・フーマンにもわかっていた。


しかしその居所は未だ不明である。

なんとしてもジャスティスを見つけ出し、ヒーローと同一人物であるという証を立て、抹殺しなければ。

そのためには人材だ。

弾数が必要となってくる。


前回のロブスタークイーンでは失敗したが、逆に言えば人材は無限とも言えるほどに豊富であるという証明にはなった。

これは大変な収穫である。

フーマン・アーミーの結成も時間の問題でしかない。


そのためにもヒーローを抹殺したい。

抹殺するためには人材だ。

その人材を集めるための第一号怪人、コウモリ男爵が生まれたのである。


これを喜ばずして、何を喜ぶというのか?

秘密の研究室ラボで、ドクター・フーマンは高笑いした。

正確には、ドクター・フーマンの憑依した男が驕り高ぶったかのように高笑いしていた。






そして僕、柏木和也である。

これまでの事件について、憑依を許したヒーローという異星人と分析をしていた。


「ねえ、ヒーロー? これまでフーマン博士は単発でしか事件を起こしてないけど、同時多発の事件を引き起こすだけの力が無いって考えてもいいのかな?」


「そうだね、カズヤ。フーマン博士も私も、この星に来て日が浅い。まだ単発で事件を起こすだけの拠点しか、確保できていないと考えるのが妥当だろう」


「だとしたら、敵の力が大きくならないうちに」


「そう、拠点を拡大して一大勢力にならないうちに叩いておきたいところだ」


「ねえ、ヒーロー? それを探し出すだけの力が、僕たちにはあるの?」


「お恥ずかしながら、それが無いのが現状だ。カズヤの世界には、刑事ドラマというものがあるね?」


「最近お目にかからないけどね」


「その刑事という治安維持組織が、どのようにして犯人を逮捕するか? 手順を説明できるかな?」


「え〜と、聞き込みとか張り込み?」


「その通り、人数が必要になるんだ。しかし私はこの星にひとり。下手に動けば、それこそフーマン博士の奇襲を受けて、カズヤ共々命を落とす羽目になる」


「本当に厄介な存在だね、フーマン博士……」


「悪党という奴は、いつも厄介なものさ」


フーマン博士が着々と勢力を拡大しようとしているのに、僕たちには対抗する手立てが無い。

ヒーローは応援の要請はしている、というけれど応援が到着するには地球時間で一年先になるという。

それまでに僕たちにできることは、モグラ叩きのように現れる怪人を、一体一体倒してゆくことだけだ。


悪を蔓延はびこらせる訳にはいかない。

だけどそれには手が足りない。

ヒーローの心の焦りは、僕の焦りでもあった。

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