挨拶大作戦
「告白云々の前にさ、アンタって葉山さんと話したこと一回しかないんでしょ?クラスメイトって認識されてないんじゃない」
「ウッ……」
宮永さんの何気ない一言は、僕の心臓を一撃で止めるのに、充分な威力を持っていた。
「まぁまずは、ちょっとでも会話して、葉山さんの印象に残るところから始めましょうか……ちょっと、聞いてるの?」
「……ハッ、はい!聞いてます!師匠!」
「じゃあこれから葉山さんに挨拶してきなさい。初日だし、無理に会話を続けなくてもいいわ。軽く話してくればいいから、ハキハキとね!」
「はい!いってきます!師匠!」
僕は宮永さんに見送られて、一人席で読書をしている葉山さんの元に向かった。
宮永さんには勢いよく返事をしたけれど、内心はかなりいっぱいいっぱいだ。脈が速くて運動してるわけでもないのに息が切れそうだ。それでもなんとか葉山さんの近くまでいくことはできた。すぐ近くで止まったからか、気配を感じたらしい葉山さんが、手に持っていた本から視線を上げて僕を見る。
しっかりと目が合った。
すぐそらした。直視し続けるのは僕には無理だった。キョロキョロと目線が動いてしまって落ち着かない。かなり挙動不審だ。動悸が凄い。
読書を中断したからか、葉山さんは若干鋭い目つきで、ソワソワしている僕を見ていたけれど、それでも可憐で、見惚れてしまいそうなほど綺麗だった。いけないいけない、しっかりと挨拶しないと!
「お、おは、おやよぅ、ぅ、ございます!」
「……おはよう」
……キャー!「おはよう」って!「おはよう」って葉山さんが挨拶をしてくれたよ!
僕は喜び勇んで、廊下で待機している宮永さんの元に戻った。
「やりましたよ師匠!挨拶を返してもらえました!」
「いや、かみすぎ、しかも挨拶だけで会話できてないじゃんアンタ」
「……はい」
ダメ出しもらいました。
「とりあえず、一言でいいから、挨拶の後に続けて何かしゃべりなさい。あと挙動不審すぎ、不審者感ヤバイから」
宮永さんに可哀そうなものをみる目で見られて僕は決意した。
くっ、なんとしても、葉山さんと会話をしてみせる!
次の日も、また次の日も、僕は葉山さんに挨拶をしては、会話を試みる。
「あ、その、今日は、その、ぃいい天気ですね!」
「……そうかしら」
「……」
「は、は、葉山さんは読書が好きなんですか?ぼ、ぼくも読書好きでして、えへへ、えっと、最近僕は――」
「……静かにしてくれる?」
「……」
「……」
「……」
……出来ませんでした。
呆れた様子で僕を見下ろす宮永さんと土下座する僕。
「アンタねぇ、何であそこまで挙動不審になるのよ!ちょっとは落ち着いて話しをしなさいよ!あーしと話しする時は結構普通に話してんのに、なんであんなかむのよ!緊張しすぎ!」
「だって、宮永さんはこんな僕の面倒を見てくれる優しい人で、恥ずかしくて出来なかったことも、宮永さんとなら挑戦できて、一緒にいると勇気をもらえる。僕にとって宮永さんはそんな特別な存在だから」
「んな⁉ ぁ……」
実際、僕もびっくりしていた。女の子と会話なんて、ここ何年もろくにしていないのに、宮永さんとは自分なりにだけど自然に会話ができていた。僕もかなり成長したのかと思ったけど、他の女の子と会話をすると緊張しまくるから、成長したわけじゃなく、宮永さんが特別何だと思う。
真剣に言い訳すると、何故か宮永さんが顔を真っ赤にして固まっていた。
「ん? あれ? 宮永さん?」
「……る」
「へ?」
「もう帰る!!」
「な、なんでですか⁉ これから授業ですよ⁉」
なんとかなだめて戻ってきてもらった。
次は12/18に投稿します!