ギャル登場
「な、なな、な、な!」
「な?」
「なんで⁉ いつからそこにいたんですか宮永さん⁉」
僕しかいなかったはずの教室にいつの間にか現れたのは、宮永有紗さんだった。肩までのびた派手な金髪がトレードマーク、快活そうな整った顔つきで、女性らしさあふれる体型をしている宮永さんは、いつも誰かしら友達と盛り上がっていて、教室の雰囲気を明るくしている。クラスのカースト上位にいるお方だ。もちろん僕はまともに話しもしたことがない。
その宮永さんが、いつの間にか僕の前に座っていて、どうしてなのか書き上げたばかりのラブレターを「ふ~ん」とか言いながら読んでいて、僕にはこの状況がまったく理解できなかった。
「いつから? えっと『う~ん違うな、ここはもっと情熱的に』って言ってたあたりから」
「ぁあああああああああ!!!」
結構中盤あたり!書いてるところじっくり見られちゃってる!
しかも僕の独り言気持ち悪いぃぃぃいい!
ぁ、あぁ、あ……
……死にたい。
「なるほどね~。アンタ葉山さんが好きなんだ」
ラブレターを読み終えたらしい宮永さんがニヤニヤしているのがわかる。女王様みたいだ。机に突っ伏した僕の頭を手紙で叩いてくる。
あぁ、終わった。何がって? 僕の恋が、いや、僕の学校生活がかな、はは……。
だって、よりにもよって、あの宮永さんだ。僕とは住む世界が違うような女の子。こんなに友達が多い人に知られてしまったんだ。明日にはきっとクラス中に僕が葉山さんへラブレターを書いたことが知れ渡っているに違いない。そして、「ひゅーひゅー」とか「付き合っちゃえよ~」とか揶揄われて、葉山さんからも鬱陶しがられて嫌われてしまうに違いない。
「……僕は、死にます」
「いやなんでよ!誰かにチェックして欲しかったんでしょこの手紙、だから読んだんだけど?」
「……へ? チェック、してくれたんですか?」
僕が顔を上げると、宮永さんは「あったりまえでしょ、てかなんで自分で頼んでおいて落ち込んでるのよ」と頬を膨らませていた。ちょっと可愛い。
「僕はてっきり、その、クラス中にコピーをばらまかれて揶揄われて、その後はクラスの奴隷みたいにされるのかとばかり」
「アンタの闇がヤバイのはわかった」
若干ひかれた。
「つーか、私は虐めとか、そんな幼稚なことには興味ないの、おわかり?」
僕はぶんぶんと、首が取れそうなくらい頷いた。
どうやら宮永さんは、普通にいい人だった。
今まで話しをしたことがない僕にも、こうやって自然に接してくれている。
やっぱり人を見かけで判断しちゃいけませんね、うん。
「それにしても葉山さんかぁ、あの氷みたいな堅物のどこに惚れたわけ?」
「それはですね!葉山さんの優しさに触れたからでして、一見冷たくて感情がなさそうな人なんですけど、実は目立たない存在の僕のような奴まで気にかけて掃除を手伝ってくれる優しい、暖かい心の持ち主なんですよ。それにですね、冷たそうに見えるのは、あの整った容姿も一因でして、綺麗すぎるがゆえの弊害かなって僕は思うんですね。そこまで完成された美を葉山さんは体現しているというか、僕からしたら存在がもう、すでに神の領域にいると言いますか、あ、神に恋するなんておこがましいですかね、でも僕は――」
「あ、もういいから。黙って」
「あ、はい」
すごい目つきで睨まれました。
まぁ早口で気持ち悪かったですね、はい。
「あ、じゃあ、その、どうでしたか?僕の書いたラブレターは?」
微妙になってしまった場の空気を変えるために、僕は本題に入ることにした。きっと宮永さんなら、素直に参考にできるような、忌憚のない意見を言ってくれるに違いない。
「ダメね。全っ然!ダメ! こんなんで人の気持ちを動かせると思ってんの⁉」
僕はまた、机に突っ伏した。
7話も本日投稿します!