ラブレター大作戦
自分でもびっくりするくらい度胸がなかった僕は、恋をして大胆になった程度では、好きな人に声をかけることもできませんでした。
「はぁ……」
自分の情けなさに打ちひしがれた僕は、ふらふらとした足取りで図書室をあとにした。葉山さんは僕に気が付くこともなく、今でも読書をしているはずだ。
「はぁ」
僕は自分が情けなかった。
まる一日かけてチャンスを伺っていたのに、チャンスが来るたびに僕は、人目が気になるだの、風景を壊したくないだのと、何かと理由をつけては、葉山さんに声をかけるのを止めてきた。これではただのストーカーだ。
散々、御託を並べたけれど、声をかけれなかった理由は単純で、いざ、葉山さんと話をするとなると、身体中が緊張で震えて動かなくなった。
怖かった。
告白して、葉山さんから何て言われるのか、それを考えただけで、僕は一歩も踏み出せなくなる。
単に振られるだけならまだいい、それだけじゃなく、いろいろと罵詈雑言を言われたらどうしよう。例えば「話しかけないで、臭いわ」とか「気持ち悪い、それ以上近寄らないで」なんて葉山さんに言われたら、僕は、間違いなく自分の手で人生を終わらせることになるだろう。
要は僕のメンタルがチキンすぎてヤバいってこと。
こんな調子じゃ、好きな人に想いを伝えるなんて、夢のまた夢。大人しく諦める方が身のためかもしれない。
うわぁぁあああ、でもそれも嫌だぁあ!
振られてもいいから、葉山さんに想いだけは伝えたい……嘘だ。本当は葉山さんと仲良く、というかお付き合いしたい。そのためには、自分から告白しないと何も始まらない。
あぁ~あ、何かいい案はないだろうか……
「……はっ⁉」その時、僕に電流が走る!
直接告白する勇気がないなら、手紙を渡せばいいじゃない。
そうだ! ラブレターだ!
*******
教室に戻った僕は、さっそく葉山さんあてのラブレターを書くために、ノートのページを綺麗に切り取った。可愛らしい便箋とかを使うことも考えたけど、僕が可愛らしい便箋を出すなんて、ちょっと気持ち悪い気がして止めた。
放課後になってしばらく経つ、今の教室には僕しかいなかった。
これなら誰も気にすることなくラブレターを書くことができる。
僕は一生懸命に、自分の気持ちを言葉にすることに集中した。
『 葉山さんへ
突然のお手紙失礼いたします。クラスメイトの戦野 千歳です。
この間は、掃除当番を手伝ってくれてありがとうございます。
僕はその時、葉山さんの優しさに触れて、あなたのことが好きになってしまいました。
いきなりこのようなことを言われても困ってしまうと思います。すみません。
それでもこの想いを伝えたくて、手紙に書きました。
もし、僕の想いを受け入れてくれるなら、お返事が欲しいです。
よろしくお願いします。』
「ふぅ、できた」
気が付けば、外が暗くなり始めていた。
ラブレターを書くのに夢中になりすぎて気が付かなかった。放課後の教室は誰もいなかったから、それだけ集中して書くことができた。「ぅう」とか「いや、ここはもっと情熱的に」とか「あぁ~」とか、書きながら独り言を言っていたけれど、それも一人だったから問題はないし、短い文章ではあるけれど、しっかりと気持ちをかけた……と思う。
たぶん、変ではない……はずだ。 きっと……。
ぁあああああ、やっぱり不安になってきた。
あとは、できたラブレターを誰にも見られることがないこの時間に、葉山さんの下駄箱に入れて帰るだけなのに、一度できてしまった不安の種は、僕の中でどんどんと大きくなってしまっている。
これじゃあ、自信がなくて、せっかく書いたラブレターも渡せなくなっちゃいそうで、せめて――
「せめて、誰かに誤字とかがないか確認してもらえたらなぁ」
「んじゃ、あーしがチェックするけど」
「ほんとうですか? いやぁ~助かります。ありがとう、ございま……す?」
いつの間にか、僕の前の席にはクラスメイトのギャルが座っていた。
次回ギャル登場!
明日6、7話投稿します!