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真っ向勝負のしかけかた!  作者: 美濃由乃
意気地なし
4/12

童貞ゆえに‼


 クラスの高嶺の花、葉山はやましおりさんに掃除当番を手伝ってもらってから数日。

 僕は例によって、今日も一人で学校生活を送っていた。


 相変わらずのボッチではあるものの、今は少し、学校生活に華やかさを感じていた。


 同じクラスにいる以上、何度となく視界に映るあの人の姿。

 気が付くと、葉山さんを目で追ってしまっている自分がいる。

 葉山さんを見ているだけで、心臓の音がバクバクと五月蠅くなる。

 葉山さんを見ているだけで、身体がポカポカと温かくなってくる。


 僕は今まで、こんな気持ちを抱いたことはない。

 けれど、それでも今、僕が葉山さんに抱いている感情が何なのか、それくらいはわかっている。そう、それは――



 恋心!!


 人生十五年、今まであんなに優しくしてもらったことはない! (*掃除を手伝ってもらっただけ)


 今まであんなに優しい言葉をかけてもらったことはない! (*別に普通の言葉だった)


 これで恋に落ちないわけがない! (*童貞にかぎる)



 恋は人を大胆にするというけれど、それが本当なんだってことはすぐに実感できた。だって僕は今、こんなにも堂々と、晴れやかな気持ちで過ごしているから!


 朝、教室に入る時「おはようございます」と挨拶できたし! (*普通のことです)


 授業で先生に指名された時も「わかりません」と声が裏返ることもなく言えた! (*問題はわからなかった)


 こんなこと、今までの僕だったら絶対にできなかった!それでも今の僕にはできる。これが、恋する男子の力!僕には今、世界が輝いて見えた。


 今ならなんだって出来そうな気がする。女の子に話しかけることもできそうだし、女の子に自分の想いを伝えることだってできるかもしれない。


 ……どうする僕? まさか、まさかアレをやっちゃうのか!?


 アレ、そう、つまり――



 告白!!


 ひゃ、ひゃぁぁあああああああ!!!


 言っちゃった! 告白って! ひゃぁあああ! (*挙動不審)


 告白って!そんなまさか、僕が!? そんな大それたことをしてもいいんですか!?

 いや、していいに決まってる! 恋心は誰にだって止めることはできないんだ!


 ……オホン、つい興奮してしまったけれど、僕の心はかたまった!この気持ちを、好きだって気持ちを、葉山さんに伝える! そう決意した僕は、いつでも告白できるように、チャンスを待つことにした。



 日中、休み時間、葉山さんはだいたい教室にいる。他人と話しをしていることはまれで、だいたいは読書をしているようだ。これなら、他の誰かとの会話を邪魔することもないし、華麗に声をかけることができる。いけ!行くんだ僕!


 ……無理だ。教室で声をかけるなんて、ハードルが高すぎる。たとえ葉山さんが一人で読書をしていたとしても、教室には他の人たちだって大勢いる。そんな中で、陰キャの僕が葉山さんに声をかけるなんて注目されそうなことをできるわけがない。別のチャンスを探さないと――



 お昼休み。葉山さんは可愛らしいお弁当箱を持って席を立った。僕もコンビニで買ってきたパンを掴んで葉山さんの後を追う。葉山さんを追ってたどり着いたのは、中庭だった。気持ちがよくなるような青々として空の下、校舎の影になったベンチで静かにお弁当を食べ始める葉山さん。これは、絶対的なチャンス! 今、中庭には人影はない、つまり、ここにいるのは葉山さんと僕だけ! さっきは一目を気にして声をかけれなかったけど、誰もいない今なら、そんなことは気にする必要もない。いけ!いくんだ僕! 今なら、自然に葉山さんと二人きりになれる。恋をして大胆になった僕なら、女の子にだって声をかけられるんだ!


「……」


 ……ダメだ。晴れ渡る空の下、静かにお弁当を食べる葉山さんは、神聖ななにかに見えた。今すぐこの光景を切り取って、絵にしたくなるような神々しさ、僕には、その空間に、僕という不純物が入ることが我慢ならなかった。今は確かにチャンスだけど、それでもこの美しい景色を壊すことなんて僕にはできない。まだ、まだだ! 次のチャンス、次こそは葉山さんに絶対に声をかける! 僕は心の中でそう誓って、葉山さんがお弁当を食べている姿を遠くから眺めていた。パンは食べ損ねた。



 放課後、葉山さんは荷物をまとめると教室を出て行った。部活動をしていないらしい葉山さん。すぐに帰ってしまうのかと慌てたけれど、葉山さんは昇降口ではなく、図書室に入っていった。少し時間をあけて、図書室の中をのぞいてみる。


 葉山さんは後ろの方の席で読書をしていた。休み時間も本を読んでいたし、きっと読書が好きなんだと思う。しばらくの間、葉山さんばかりに気をとられていたけれど、ハッとあることに気が付く。


 テスト期間でもない図書室は、人の往来がなく、閑散としていた。本を借りにくる人がいないからか、担当の図書委員もうたた寝をしているようだ。


 つまり、今が最大のチャンスだ!


 今なら、葉山さんに声をかけることができる。図書室であることを考慮して、小声で葉山さんに話しかけ、屋上か校舎裏の人気のない場所まで着いてきてもらい、そこで告白をする。完璧にシミュレートできた。一部の隙もない完璧な流れ、このチャンス、逃すわけにはいかない! いけ!いくんだ僕!


「……」



 ……ふぅ。



 ……できませんでした。

次の話は明日の夜になります!

よろしくお願いします!

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